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STORY -

  • Sep. 14, 2021

  • それでも表現しつづける理由
    「リボーンアート・フェスティバル」

  • 音楽家、ap bank 代表理事 小林武史
    インディペンデント・キュレーター 窪田研二

  • writer:Hiroyuki Funayose
    photographer:Mika Hashimoto
    (クレジットがあるものを除く)
    content direction:Naomi Kakiuchi

 

 

 

 

小林武史 / TAKESHI KOBAYASHI
音楽家、ap bank 代表理事
日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手掛ける。映画音楽においても『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』を手掛けるなど数々の作品を生み出す。2003年に非営利組織「ap bank」を設立。環境プロジェクトに対する融資から始まり、野外音楽イベント「ap bank fes」の開催や東日本大震災などの被災地支援を続けている。千葉県木更津市で農場『KURKKU FIELDS』も運営し「食」の循環を可視化するプロジェクトも進めている。東日本大震災復興支援の一環としてスタートしたリボーンアート・フェスティバルでは実行委員長および制作委員長を務め、2017年には、ビジュアルデザインスタジオWOWとバルーン・アーティストDAISY BALLOON とのインスタレーション作品《D・E・A・U》を制作。


窪田研二 / KENJI KUBOTA
上野の森美術館、水戸芸術館現代美術センター学芸員を経て2006年よりインディペンデント・キュレーターとして活動。 2012年−2016年、筑波大学芸術系准教授として創造的復興プロジェクトに参加。 政治、経済といった社会システムにおいてアートが機能しうる可能性をアーティストや大学、企業などと協働し、様々な文化的フォーマットを用いて試みている。「X-color グラフィティ in Japan」(水戸芸術館現代美術センター、2005年)、「マネートーク」(広島市現代美術館、2007-2008年)、「六本木クロッシング2010−芸術は可能か?」(森美術館、2010年)、「Don’t Follow the Wind」(福島の帰還困難区域内某所、2015年-)、「Asian Art Biennale」(国立台湾美術館、2017-2018年)他、国内外の展覧会キュレーションを多数手がける。 現在、学習院女子大学非常勤講師、川村文化芸術振興財団理事。

 


 

2022年4月25日追記
新型コロナウィルスの影響により、後期の日程が以下に変更となりました。
会期:2022年8月20日(土)〜 10月2日(日) ※会期中に、休祭日あり
開催場所:宮城県 石巻市街地、牡鹿半島
後期詳細:https://www.reborn-art-fes.jp/

8月11日、宮城県石巻市・牡鹿半島・女川駅周辺を舞台に行うアート・音楽・食の総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル 2021-22」(Reborn-Art Festival 2021-22)が開幕した。東日本大震災で大きな被害を受けた地域のひとつであるこの場所に多くの人が訪れ、アート作品や音楽、地元の人や食材との出会いを楽しんでいる。

 

新型コロナウイルスの変異株が猛威をふるう状況により文化芸術の表現の機会が縮小するなか、本芸術祭は開催地の後押しも有り開幕に至ったという。その理由は何なのか? 本芸術祭の実行委員長で音楽プロデューサーの小林武史さんと、夏会期のアート部門のキュレーターを務めた窪田研二さんに、この開催にかける思い、そしてこの状況下においても決して表現を止めない原動力について聞いた。

 

※このインタビューは2021年8月中旬頃に実施しました。 

もう一度あの震災を深く潜行したいと思った

 

2017年から宮城県石巻市と牡鹿半島を中心に2年に1度行われるリボーンアート・フェスティバル(以下、「リボーン」)。3回目となる今回は「利他と流動性」をテーマに、初めて夏と春(2022年)の2期制が取られた。

 

小林:コロナがどうなるのか見通しのつかない状況だったので、通常通り夏会期だけで開催するのは、少し早すぎるだろうと。そこで会期を夏と春に分けることを思いつきました。とはいえ、ここに来てコロナがここまで勢いを増すとは考えていませんでしたが。


リボーンは他の芸術祭とは異なる背景を持つ。それは被災地で行う芸術祭ということ。町に根ざした芸術祭はあれど、土地の悲しい記憶に寄り添う芸術祭は日本でも異質とも言える。

 

小林東日本大震災は命を見つめるきっかけになり、多くの人たちに「何が豊かなのか?」と問いかけました。もっと大きく言えば『なぜ僕らは生きようとするのか?』と投げかけた。リボーンはその問いを深く捉えようとアプローチしながら、さまざまな表現を用いて発信をしてきました。その姿勢に地元の方や行政の方も意味を感じてくれたからこそ、このような状況でも開催できたのだと思います。

 

 

数日前に東京2020オリンピックが閉幕。感染者が加速度的に増え、日本中で大規模なイベントの必要制が再議論されるタイミングではあったが、小林さんは石巻でその不安を払拭するかのような声を耳にする。

 

小林:開幕前にお会いした実行委員の方に、『小林さん、コロナは正しく恐れた上で進めましょう』と後押ししていただきました。リボーンを始めて今年で4年目。回を重ねるごとに石巻の人たちとの関係性は強いものになったし、僕たちの一方通行ではなく、一緒に積み上げるような性質を持つ芸術祭になったと思います。

 

2017年から始まったリボーンだが、それ以前から小林さんは石巻市をはじめ東日本大震災の被災地との関わりは深い。小林さんはMr.Childrenの櫻井和寿さん(*)、坂本龍一さんと2003年にap bankを設立。

「サステナブル」を大きな指標に据えながら、自然エネルギーや環境保全活動への融資、野外音楽イベント「ap bank fes」の開催など、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、発展的に継続してきた。

 

(*)Bank Bandでの名義は「櫻井和寿」。ap bankでのインタビューとなるので、こちらの名義で統一。 

 

その活動が2011年の東日本大震災によって、大きな変化をもたらす。ap bankは被災地への募金活動にとどまらず、被災地での炊き出しや災害復興ボランティアの派遣など、さまざまな復興支援活動も行ってきた。小林さんは東日本大震災を「悲劇という言葉が震災に使えないのなら、何が使えるんだ」と思うほどの出来事だったと表現する。

 

小林:誤解されるかもしれないけれど、震災は僕にとって興味深いことなんです。それ以外思い浮かばない。そう思えなかったら、こんなにいろんな側面で関わることなんてなかったからね。そして、あの震災は人間の特に都市を中心とした活動にものすごく警鐘を鳴らすものだったと感じています。振り返ると9.11のアメリカ同時多発テロもそうだし、コロナもそうだと思います。人間は何度もそういう目に遭ってきたのに、それを学習しない。だから僕たちはどこかで恐れを知った方がいい、思い上がりはやめた方がいい。自然に対して、命に対してもっと謙虚になる必要がある。実はそれが本当の豊かさや楽しさが手に入ることにつながると思っています。

 

その思いはやがて、これまで活動してきたジャンルの垣根を超え、アートをテーマに地域振興や復興の循環を目指すリボーンへとつながった。

 

小林:あるとき石巻市出身の方に『震災は自然の中のサイクルだから、悲劇だと言わないでほしい。私たちはそうやって受け止めていける』と言われました。また、石巻出身の芸術祭のディレクターは『コロナがじわじわと浸食する様子は、まるで地震で津波が押し寄せて来たときのよう』と表現しながら、『津波は人間が防ごうとして抑えられるものじゃない。だからこそ無理せずやり過ごすことも大事。こんな状況ですけど、今できる自分の役割を全うしましょう』って言ってくれて。僕はどちらの言葉にも、ものすごく共感したんですね。僕らの命も自然の一部であり、震災を起こした自然をただ呪っていても仕方ない。震災から10年経った今、こんな状況ではあるけれど、もう一度あの出来事を深く潜行したいという思いがありました。

一貫して命を扱っている

 

 3回目となるリボーンのテーマは「利他と流動性」。小林さんはリボーンのステートメントにこう記している。

 

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コロナ禍の状況も踏まえてはっきりと輪郭を持ち始めた言葉がある。それが「利他」 。「利他」 は今、その定義が漢字の持つ意味合いよりも曖昧だが、それがさらに広く捉えられ、全体とのつながりをイメージしていくような言葉としても機能しているようだ。

 

持てる者が持てない者に物質的な施しを与えるというようなことには留まらない、慈善活動のような思いには留まらない、共に生きるという視点がそこにあると思う。さらにそれは人間社会にも留まらない「人間も自然の一部である」という認識も含めて、 自己と他者の境界を流動性で捉えていくというイメージも起こさせる。

 

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リボーンは「利他」と「流動性」のなかで、新しい日常や本質をかたち作られる想像力や関係性にあらためて向き合う機会を創出する。

 

夏会期(8月11日〜9月26日)のキュレーターは、上野の森美術館や水戸芸術館現代美術センターの学芸員を経て2006年よりインディペンデント・キュレーターとして活動する窪田研二さんが担当した。これまで国内外の企画展や芸術祭に携わってきた窪田さんは、リボーンの特色についてこう話す。

 

窪田リボーンのテーマ——初回の「Reborn-Art」、前回の「いのちのてざわり」、そして今回の「利他と流動性」と、一貫して命を扱っている。震災で大きな被害を受けたこの地で真摯に考えられたテーマだからこそ命の一つひとつをミクロ的に見ていくような態度が生まれ、それが地元の方々にも伝わっていると感じます。今回であれば、「利他と流動性」というテーマを受けて、自分たちなりに考える態度が現地で生まれています。決して僕らがテーマを押しつけるのではなくて、一緒に考える。それがいろんなところで起きていることが、リボーンの特色だと思います。

 

夏会期は石巻市街地、女川、桃浦、荻浜、小積、鮎川の計6エリアで23組のアーティストの作品を展示する(常設作品のアーティストは除く)。

 

新たなアートスペースも続々と生まれ再生が進んでいる石巻市街地エリアでは、地元民にも馴染み深い元銭湯やアイススケート場などを会場に、廣瀬智央さん、HouxoQue、大友良英さん、片山真理さんなど10組のアーティストの作品が並ぶ。

 

廣瀬智央 / クール・ダウン [2001/2021] photo by Taichi Saito

HouxoQue / 泉 [2021] photo by Taichi Saito

牡蠣の養殖が盛んな漁村がある桃浦エリアは、2018年に廃校となった旧荻浜小学校を会場に、篠田太郎さん、サエボーグ、岩根 愛さん、SWOON、夏井 瞬さん、そして森本千絵さん×WOW×小林武史さんの作品を展示する。

森本千絵 ×WOW×小林武史 / forgive [2021]
Supported by 木下グループ photo by Taichi Saito

夏井瞬 / 呼吸する波 [2021] photo by Taichi Saito

2017年開催のリボーンで生まれた名和晃平さん《White Deer (Oshika)》が設置されている荻浜エリアには小林万里子さん、片山真理さん、布施琳太郎さん、狩野哲郎さんの作品が集まっている。

小林万里子 / 終わりのないよろこび [2021] photo by Taichi Saito

布施琳太郎 / あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて [2021] photo by Taichi Saito

食肉処理加工施設「フェルメント」のある小積エリアでは、2019年のリボーンでこのエリアに展示した志賀理江子さんが、栗原裕介さん、佐藤貴宏さん、菊池聡太朗さんとともに新作を発表した。

志賀理江子+栗原裕介+佐藤貴宏+菊池聡太朗 / 億年分の今日 [2021] photo by Taichi Saito

前回のリボーンは名和晃平さん、中沢新一さんらが各エリアをキュレーションするマルチキュレーター制を取ったが、今回は窪田さんがひとりで全エリアのキュレーションを担当。窪田さんは「その方がより小林さんの掲げる『利他と流動性』を展覧会に反映出来ると思った」とその理由を語る。

 

窪田:小林さんのコンセプトをいかにひとつの展覧会として見せられるのかが、僕の役目だと思っていました。人間の社会における利他はもちろん、人間と非人間の利他もある。それを地球とか宇宙とか大きく解釈すると、どんどんイメージが膨らんでいくわけです。その膨らみのようなものを鑑賞者が作品を通じて、どうやって共有することができるのか。そして、生命の循環や自然と人間の循環など大きいサイクルをどうやって感じることができるのか。そういった問いかけを小林さんと一緒に紐解きながら、芸術祭としての具現化を考えていきました。

 

次々に繰り出される窪田さんのアイデアは小林さんの想像をはるかに超えた。小林さんは「本当に面白い発想をする人だ」とその発想力に驚いたという。

 

小林:窪田さんのアイデアはどれも心に引っかかりを作ってくれるんです。「それ面白すぎない?」「面白さで行き過ぎてない?」って一回もめたこともありましたけど(笑)。常に冷静なのだけど、たまに落ち着いた顔ですごくふざけたことを言ったりもする。そういうやりとりで、「この人はつまらないことに腰を落としてしまう人ではないな」と感じましたし、女川エリアのアイデアを聞いたときに、窪田さんにお願いして間違いなかったと確信しました。

文化・芸術は絶望を希望に変える力がある

 

海に面した宮城県牡鹿郡の女川町は、東日本大震災で高さ20メートルもの大津波により住宅の約7割が流出し、この町の人口の1割の命が失われた。

 

窪田:女川の町を見ることで、この10年の変遷が外から来た鑑賞者にも良く伝わると思いました。復興を遂げた町に震災遺構が残る一面もありながら、防潮堤のない町を選択した街の人々の決意が肌で感じられる。日本の縮図とまでは言わないけれど、いろんな象徴がこの町はあるんですね。この場所を訪れ、作品だけではなく町や時間などをそれぞれに感じてもらうことによって、利他や流動性を考えてもらうきっかけにすることも非常に重要だと考えました。

 

2015年、女川駅は建築家・坂 茂さんの設計により新駅舎としてオープンした。その駅前広場には、会田誠さんの彫刻「考えない人」が鎮座する。

 

会田誠 / 考えない人 [2012] photo by Taichi Saito

会田さんのオリジナルキャラクター「おにぎり仮面」がロダンの「考える人」や「弥勒菩薩半跏思惟像」を連想できるポーズを取る「考えない人」。西洋に端を発した近代化や資本主義、そしてそれに翻弄されてきた日本的な側面を想起させるものでもあると窪田さんは解説した。

 

小林:女川原発の再稼働でさまざまな議論が巻き起こる今、会田さんの「考えない人」を駅前にドンと置くこと自体が、皮肉めいた笑いのようにも見える。原発でヒリヒリする雰囲気がありながら一方では温泉施設が入る新駅舎のようにユニークな復興の姿もある。そういう場所に、力を入れずにびくともしない「考えない人」が現れると、その神々しさにハッとさせられるんです。

 

女川町海岸広場周辺では、旧女川交番そばに、訪れた人が短冊に願いを書き、それを若いツバキにくくりつけることで完成する、オノ・ヨーコさんが世界各地で続ける参加型作品「Wish Tree」が展示されている。

 

オノ・ヨーコ / Wish Tree [1996/2021] photo by Taichi Saito

女川港周辺には、集まった大勢の人々がロープと人力で巨大な構造体を公共空間で動かすプロジェクト「引き興し (Pull and Raise)」が代表作として知られる加藤 翼さんによる映像作品「Surface」を上映。津波で海に流された車を、大勢の地元民の力で陸に引き上げる様子が映し出される。

加藤翼 / Surface [2021] photo by Taichi Saito

photo by Kenji Kubota

窪田:当初、加藤さんに「女川の人たちと何かプロジェクトをしませんか?」というオファーをしました。加藤さんが女川の方から『そこに10年前の津波で海に落ちてしまった車があるんだよという話を聞いたことがきっかけになり、『それならその海底で10年間眠る車と陸上との時間をなんとかして顕在化させられないか』と提案をもらいました。それで女川町の方々にご協力をいただき、最終的に引き上げられることになったんです。

 

7月末には実際に女川湾の海底に沈む車両を地上へと引き上げる体験型アートを実施。当日は町民ら100人以上が参加し、ロープを引っ張ると水深約8メートルの海底から車が現れた。

引き揚げられた車を前にして、涙を流す人がいた。女川町観光協会から参加してくれた方だった。

 

窪田:引き上げた瞬間に現れたのは、魚礁のようにたくさんの貝がひっつき、ヘドロにまみれる真っ黒な車でした。それを見てその方が『自分たちはこの10年、壊滅した町の復興だけを考えてとにかく前に突っ走ってきた。でもこれを見た瞬間に置き去りにしてしまったものが間違いなくあったんだなと話されて。非常にセンシティブな問題ではあるのだけれど、そういった感情を引き起こさせ、時間というものについてあらためて考えさせられる素晴らしい作品だと思いました。

開幕してからも新型コロナの状況は刻一刻と変化している。社会では『今は文化や芸術は必要ない』といった声も一部では耳にするが、それでもリボーンをはじめさまざま表現を発信し続けることにはどのような意味があるのだろうか。

 

窪田:震災が起きたときも、その議論はありました。大勢の方々が家をなくされて避難所で生活しているなか、アートは何に役に立つんだろうと。当然、生きていくためにはライフラインを確保することが絶対に必要です。コロナ禍においても感染しないようにすることや、医療が崩壊しないようにすることは最低限の重要なことではある。けれど、それとは別の役割として文化・芸術があると思いますアートは我々が近視眼的に見えてしまうような社会や未来の姿に対して、「こういう選択肢もあるよ」と気付かせてくれる。極端に言うと“文化・芸術は絶望を希望に変える力”があるんですね。そういう意味では、絶対に必要なジャンルではあると思いますし、この先もずっと続くべきものだと思います。

 

 

小林さんは窪田さんの言葉に共感しながら、櫻井さんとの会話を口にする。2004年、ap bankの可能性をさらに広げるため、小林さんと櫻井和寿さんが中心となりバンドBank Bandを結成。今回のリボーンのプログラムでは、櫻井さんと小林さんによる音楽イベント『ワン・バイ・ワン・プラス 〜10年目のフレームより〜』が8月29日、石巻に震災復興記念として新たに誕生した文化施設「マルホンまきあーとテラス」で開催された。

 

緊急事態宣言下での宮城県による収容人数制限、営業時間短縮、追跡対策などの各種要請やガイドラインが遵守された。

『ワン・バイ・ワン・プラス 〜10年目のフレームより〜』
photo by Takehiro Goto

小林:コロナ以前の櫻井くんだったら、『この状況だとライブは無理ですよね。やめません?』と言ってきたと思うけど、言ってこなかったんです。多少の批判はあるだろうけど、「利他」の示し方は必ずしもみんなのことを考えて自粛することではない局面に来ていることだとは思うんです。もちろん、万全の感染対策と宮城県のガイドラインを遵守した上での開催になります。 

 

 

小林さんは表現者の役割について言葉を続ける。

 

小林:昔に比べると社会の仕組みが複雑になったり高度になったりするように——それはある種高度に見えるだけの世界かもしれないけれど、デジタルで何もかもできてしまう社会は、命が反応する感性を要しない気がします。そういう人たちだけになると、やもすると命の大切さを軽んじて危険な世界に陥るかもしれない。でも、「そんなことじゃないよ」ってある種、人間の大切な部分に気づかせるきっかけのひとつを生み出すことが、僕たち表現者の役割でもあると思いますね。

 

今回のリボーンは、2022年4月23日(土)~6月5日(日)に春会期を開催する。会場は夏会期と同じく石巻地域となる。

“生きる”の第一歩は「出会うこと」

 

小林さんは1980年代からMr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手掛け、1990年代以降になると映画『スワロウテイル』などの映画音楽においても、その独創性な世界観によって数々の素晴らしい作品を生み出してきた。そしてあるときを境に、その視線は音楽業界を超えて、「持続可能な未来」というより広義な活動へと変化を遂げる。

 

小林:こういう活動をやれたのは、狙った部分と図らずもできた部分の両方ありますね。僕は70年代〜80年代の産業ロックと言われる時期に音楽業界でデビューして。それを背景に頭角を現すことができたんだけど、その頃は資本主義経済に最大の価値を見いだそうとしてきた時代でもあった。それは個の自由とお金が結びつく流れを生み出し、あちこちで暴発が生まれ、より明確な格差社会が生まれた。2000年くらいには、僕は音楽プロデューサーとしての実績もできて経済的に恵まれていたので、そういう世界で「僕はこれからどうするんだ」って思ったんです。

 

 

小林:資本主義は、結局リターンを求めるためにやるものですよね。でもリターンを求めずに「こういうことはあった方がいいな」という視点で投資する人がいてもいいんじゃないかなって思ったんです。究極的に言うと、リターンを求めることが全てのモチベーションであるのなら、社会はサステナブルにはなっていかないから。

 

 

環境破壊や気候変動による自然災害、パンデミック、差別。小林さんはさまざまな問題が複雑に絡み合っている今だからこそ向き合うべき課題を浮き彫りにするとともに、真に「持続可能な社会」へ向けた手がかりとして、個々が相手を思いやる心「利他のセンス」を育む必要があると言う。

 

そのためのヒントとして、2020年から対話を通じて提示する「A sense of Rita」を行っている

 

2021年8月発刊されたap bankに近しい識者や、
さまざまなジャンルの方との対談集「A sense of Rita」

小林:とはいえ、『小林さんは利他とか言っているけど、みんな自分のことで必死だからそんなのは届かないですよ』って言われることもあるんです。でも「利他」ってなぞなぞみたいなものなんですね。ともすれば利他的な活動はボランティアとか寄付だけだと思われる。だけど、たとえば「利他の反対側にある利己って何なのか」とか「本当に自分は一人で生きているの?」と、利他を皮切りに人間があらゆるものとどう繋がっているかという想像を巡らせることができるんです。

 

音楽を皮切りに、農業、アートなどジャンルの垣根を超え、目に見えるかたちで加速度的に活動を広げる小林さん。最後に、小林さんはこれからの活動について、また未来をこう見据える。

 

小林:僕は音楽プロデューサーってものを生業にしてきましたけど、生きるということの第一歩は出会うってことだと思います。だから僕らは出会いを起こし続けたい。まだ自分自身、音楽での出会いをやり尽くせてないことがあるなという思いもあるので、そういう時間も作りたいですね。先日、櫻井くんと話したんだけど、Bank Bandって自分たちのためにやっているのではなく、ある種ここまで恵まれてきたことを音楽で返していく“義務”みたいなもので始めました。でも、それが巡り巡って喜びとして戻ってくるんですね。それってひとつの本当に真理だなと思うんです。そういうこともありがたいなと思いながら、これからもやっていきたいですね。

 

information
Reborn-Art Festival 2021-22
<会期>
ー 夏 ー2021年8月11日(水)~ 9月26日(日)
※ 休祭日:9月15日(水)
ー 春 ー2022年4月23日(土)~ 6月5日(日)
<会場>
ー 夏 ー宮城県 石巻市街地、牡鹿半島(桃浦・荻浜・小積・鮎川)、女川駅周辺
ー 春 ー石巻地域
<鑑賞時間(夏会期)>
ー 石巻市街地エリア ー10:00 ~ 17:00(16:30最終受付)
ー その他のエリア ー平日 10:00 ~ 16:00(15:30最終受付)、土日祝  10:00 ~ 17:00(16:30最終受付)
※施設、作品によって異なる場合があります
URL : https://www.reborn-art-fes.jp/

 

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※撮影時だけマスクを外し、会話は控えてます。

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