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  • Jun. 14, 2023

  • 現代アート、NFTの「今と、これから」の話【イベントレポ/前編】

  • ゲスト:キュレーター高橋洋介さん・ブロックチェーンエンジニア/トークン投資家 Jerry KOUさん

  • transcription:Hikari Tamura
    event photo:Ikumi Chiyoki

表参道のGYRE galleryで開催された「超複製技術時代の芸術:NFTはアートの何を変えるのか?」ーの企画・キュレーター高橋洋介さんをお招きしてトークイベントを開催しました。(展示期間は2023/05/21まで)

 

NFTやweb3の技術を活用したアート作品を介して起こる情勢・議論・コミュニケーションを交えて、業界での関係性・可能性についてなど、繰り広げていきます。

また海外のweb3コミュニティー事例について、ブロックチェーンエンジニア/トークン投資家のJerry KOUさんにもお話し頂きました。

 

スピーカーにはKAMADO代表の柿内、モデレーターはKAMADOプロジェクトパートナーである瀧原 慧です。会場であるCryptoBaseはweb3のチャレンジャーたちが集うコワーキングコミュニティです。クリエーターに関係するコミュニティーとして繋がりを構築してます。イベント開催のお声がけ/会場のご協力を頂きました。

 

レポート記事は3部構成となります。

 

前編:高橋 洋介さんから展覧会概要のお話(この記事)
中編:Jerry KOUさんから海外web3コミュニティ事例についてのお話(6/18公開)
後編:NFT(テクノロジー)とアートの可能性や関係性・関わり方について&質疑応答(6/26公開)

 

 

 

高橋 洋介/キュレーター
金沢21世紀美術館主任学芸員、角川武蔵野ミュージアムキュレーターを経て独立。専門は超人間中心主義の芸術。最新の展覧会に「超複製技術時代の芸術」(GYRE、2023)、「Liminalism」(pellas gallery、ボストン、2023)など。金沢21世紀美術館での主な展覧会に「DeathLAB : 死を民主化せよ」(2018–2019/コロンビア大学大学院との共同企画)、「Ghost in the Cell : 細胞の中の幽霊」(2015 -2016/オーストリアのアルスエレクロニカへ巡回)など。

 

 

 

Jerry KOU/ブロックチェーンエンジニア・トークン投資家
Imperial College London 電気・電子工学(大学)/情報システム工学(大学院)卒業。卒業後、ZTE社(中国・深圳)ソフトウェアエンジニアからキャリアをスタート。2013年にZX Tek Ltd,のCEOに就任し、香港・米国・中国本土の組織作り等を実施。ブロックチェーンへの興味から、2017年よりシアトルアントレプレナーとしてBitcoin Miningやブロックチェーンプロジェクトへの投資、Cryptoのハードウォレット開発、インフラ開発に携わる。

瀧原)それでは主催の柿内さんです。

 

柿内)皆さん、平日のこの時間、ありがとうございます。私は元々現代アートのウェブマガジンKAMADOを2019年から運営しています。著名アート業界の方々や若手アーティストのインタビューコラムを掲載させていただいてます。その中で、現代アート業界はとてもクローズド・市場規模もとても少なく、「どうやったら皆さんに橋渡しができるんだろう?」と思って活動してきました。2022年にweb3、NFTを知りましたこの技術で、何かを変えていけるきっかけが出来るんじゃないかと思って今回プチ旗揚げイベントみたいな形で企画させていただきました。私はアートは「時代の結晶」だと思ってます。そのアーティストだからこそできていて、その時代のツールとか、生きていく中の社会情勢とかを踏まえて、作品が作られてると思うんですね。

 

 

世界のアート市場の規模が7兆円ある中で、日本は経済大国では3位ですけど、2.9%の2,500億円しか市場がありません。また文化予算について、お隣の国、韓国と比較するんですが、人口は日本の方が3分の1多いのに、文化予算は3分の1少ないというのが現状になってます。私はこれを多くの人にアートが届いてない数字として表しているのではないかと仮説をしています。

 

瀧原)韓国の文化予算はK-POPとかに割かれる割合も多いですけど、実際博物館とかの予算も一緒に引き上げられていて、このぐらいの差が日本とついているそうですね。

 

柿内)皆さん多分多くの方は美術館には行ったりとか、例えば香川の直島や新潟だと大地の芸術祭とか、そういった芸術祭に行かれたことありますか?芸術祭で旅とアートを楽しむっていう方も多くなってると思うんです。美術館も面白い展覧会があったら行くっていう方が多いと思います。

私もアート業界を知るまで沢山のプレイヤーがいるって知らなかったんですが、仕組みを知ってしまうと、アーティストがいろんなところを通じて、アート作品を出品していって、最終的にどこかのコレクターさんが持ってます。
課題の一部として公立の美術館は文化予算がないことで、コレクションができないとか、私立の美術館は来場者が伸びるコレクションになったり。若いアーティストはどんどん増えていってるのに、それを買ってくれる美術館がなかったりするっていうのが課題になってるのかなと、思います。

 

昨今のアート業界の課題感とは from高橋

 

瀧原)一般とアート業界の壁になっているわけです。高橋さん、この辺の壁をとりはらうような動きも何かあるかなと思うんですけど、この辺の問題点って、ご自身としてどう感じられますか。

 

高橋)実際に美術館にいたことがある身としては、美術館の公立予算はどんどん減ってるっていうのは本当にその通りだと思っています。ただ館によっても全然内情は異なり、まだ年間で1億円ぐらいの購入予算を持っている有名な某現代美術館などもあれば、例えばもっと地方美術館にいくと、年間数百万あるかないか、そもそも予算さえないみたいな。しかも、さらに全体予算を年5%削られていってどんどん無くなっているみたいなこともざらにあります。

最近だと都内の公立美術館で開催された近代の画家の回顧展が30年ぐらい前の展覧会とほぼ同じ構成で開催され、今回の方が内容がしょぼいとSNSで話題になっていましたが、苦境の中で日本の美術館はそれでも良いものをつくろうと奮闘していることは強く言わなくてはいけません。

 

瀧原)お金がないから所有者の美術館が売っちゃったりして、しょぼくなったりっていうのもあるんですか?

 

高橋)公立美術館が売るってことはほぼないんですけど、今でも問題としては日本には税制の問題があって。というのも海外だと、アートを買ったら、その分税金免除になる仕組みがあるんですね。それは日本と違って、アメリカの場合は勲章みたいな制度がない代わりに、自分が美術館に寄付することで社会的ステータスを得るという仕組みになっている。富めるものがきちんと社会に還元し、公共の役に立ってるって部分を示す。

現状では、有名な個人コレクターが持っているコレクションの方が、むしろ公立美術館より質の高いコレクションを持っているっていう状況も生まれつつあります。

「日本のアート業界は現在4分割されている」

 

柿内)去年、森美術館の元館長の南條さんにインタビューさせていただいたとき、「既存の美術業界・コマーシャルギャラリー系・ストリート系・NFT系。日本のアート業界は4分割されている」という話をされてました。

既存の美術業界はアカデミックな大学や美術館。業界の大御所がいらっしゃるところ。コマーシャルギャラリーは力のある良い作品を、比較的高額で富裕層の方々に販売していくような層です。この方々が今の日本のアート業界、全く現代アートがなかった時代から、礎を作ってくださっています。ですから、アートをもっと身近に!と思ってもそう簡単に今の顧客の方々は変えられないんですよね。なので、作品を高額で購入する方々はすごい素晴らしい人たちだと、私は思ってます。

そして比較的新しいストリート系というジャンルが出てきました。これはファッション雑誌・ブランドと一緒にコラボレーションをしたりとか。そんな中で急に出てきた右上のNFTアートというワード。ご存知だと思うんですけど、ジェネラティブアートとしてとっても高い金額でやり取りされるような形のアートが出てきました。ですが、現代アート業界、今までの層の方々は敬遠されていたと思うんですけど、まだ取り入れてなかった。

ですが先進的なアーティストが徐々に取り入れてきたっていう作品を、今回高橋さんがいろんなアーティストの方をキュレーションして表参道のGYREで展示されていて、展示を見たときに私は、『こんなにいろんなアート作品の定義の仕方をしてくれるんだ』とめちゃくちゃ感動しました。プレスビューで参加していただいたんですけど、その場で高橋さんに「トークイベント、お願いします。」っていうふうにお願いをして今回の会を開かせてもらってます。

では、高橋さんから展覧会のご紹介をしていただきます。

超複製技術時代の芸術とは?

 

高橋)はい、ありがとうございます。

表参道ヒルズの向かい、GYRE(ジャイル)という3階の施設で、「超複製技術時代の芸術:NFTはアートを何を変えるのか」という展覧会を開催しております。

なぜこの展覧会を実施することになったのか…なんですけども、皆さんはこの画像を知っていますか。

 

 

@「Everydays: The First 5,000 Days(毎日 最初の5000日間)」


ビープル(
Beepleと言われているアメリカの作家なんですが、彼が13以上、毎日1作品をつくり続けて、その最初の5,000ピースをさらにまとめて1枚のコラージュ画像にした作品がNFTとして2021年3月にオークション会社のクリスティーズ(Christie’sで競売にかけました

ちなみにこれ僕いらないなと思ってるんですが、皆さんこの作品を知ってる方いますか?反応薄いですね…そしたら知らない人。

知らない人にお聞きしたいんですけど、いくらだったら欲しいですか。

本当に欲しいですか?ちょっと聞いてみたいんですけど、ちなみに100万円だったら買う、1,000万や、もっと高い1億……誰もいないですね?(笑)

 

でもこれはオークションで75億円で落札されているんです

ダミアン・ハーストやゲルハルト・リヒターのような、現存の世界トップクラスのアーティストたちの作品と並ぶような価格でこれが落札されたということで、世界中に衝撃を与えるんですね。

 

例えば、いろんなNFTアートと呼ばれる新ジャンルに既存のアート界にはいないタイプの作家がたくさん溢れているのですが、これもその NFTアートの代表作家、CryptoPunksですね。

@CryptoPunks

高橋)CryptoPunksは1万点ぐらいまであってエイトビットで生成されたポケモンのカードやLINEスタンプみたいな画像で、僕は100円なら買ってもいいかなとは思うんですけど。欲しい人もいると思うんですけどね、この画像に100万とか1,000万とか1億とか払えるかと言われたら、ちょっと躊躇うじゃないですか。でも結果、この中で一番高いやつは27億円で落札されてるんです。

果たして、NFTアートとは何なんだろう。新手の詐欺、単なる金融商品じゃないのか。

その辺に転がってる何でもないデータに付加価値をつけて、ノリだけの人や、何もわかってない人をカモる技術として 、NFTが出てきちゃってんじゃないのか。

でも一方では、NFTという技術でしか表現できないことをしている可能性もあって、それがきちんと評価されて、この価格がついているなら理解できる。歴史上、NFTでしかあり得ないような、アートの形というものがあって、それがきちんと評価されて価値がついた可能性も、もちろんあり得るなと。

 

NFTに関して悪いニュース・良いニュースがあって、悪いニュースとしては、4月20日に、ARTnewsってアメリカが母体となっているWebメディアで、「NFTの売上が77%減、web3イベントにてNFT終焉か」という記事が出ました。​​これはこれまでのNFTニュースの記事の中で最も批判的なNFTアートの記事となっていますね。

 

やっぱりNFTを支えている人たち自体が、めちゃめちゃこれが儲かるからみんな買おうってブームを仕掛けたけど、何の根拠もない流行だったから一気に下落相場になった。仮想通貨の下落とともに、バブルは収束し始めている。

一方で、大暴落のNFTアートの中でも、きちんと作品が評価されて、この下落相場でも、あまり価値が変わらない、ときには上がっている作品もあるんです。

例えば最初に見せたビープルもまさにそれで。M+というアジア最大の現代美術館が香港にあるんですが、そこでスイスのコレクターが40億円で購入した最新作、HUMAN ONE(ヒューマンワン)っていうメタバース上を探索する人類をテーマにした映像彫刻のNFTを出している。

Installation view of Beeple《HUMAN ONE, 2022》© M+, Hong Kong

Installation view, Refik Anadol《Unsupervised》 The Museum of Modern Art,

高橋)あと僕もちょうど3月に見てきたんですけども、ニューヨークMoMAで最も現代アートの歴史において重要な美術館の一つで、NFTアーティストのレフィーク・アナドール(Refik Anadol)の個展が開催されたり、MOMAが収蔵作品を売却しNFTの収蔵100億円の予算を当てるという発表も記憶に新しいです。
AIが自動生成する映像が作品として評価されている。
価値があがっていく作品と、価値が下がっていく作品。この2つの差っていうのは一体何なのかっていうことを、真面目に考えてみようかと。

「NFTでしかできない作品は何か?」ってのがまさに今回の展示です。全部見せることはできないので半分ぐらいの作家を皆さんに今回ご紹介できたらなと思っています。

「超複製技術時代の芸術:NFTはアートを何を変えるのか」展覧会 会場入り口

@チームラボ《Matter is Void - Black in White 2022》Digital Work Coutesy of Pace Gallery

高橋)これはエントランスですね。5カ国中12人が参加しています。

ちなみに本展覧会は3章構成になっていて、所有、アウラ、DAO。つまりオリジナルとコピーがあったときに、オリジナルにしかやらない価値がある。というふうに言われてるんですけど本当にそうなのか、NFTにおいてそれはどう変わるのかを考える、あと所有がどう変わるのか。

そしてNFTを使ってコミュニティができていくっていう、そのコミュニティを使った表現は一体何なのかってことを考えた3章構成ですね。

皆さんに作品解説をお配りしてるので興味ある方はぜひ後でそこからQRで飛んでホームページ見ていただけると嬉しいです。

第1章 再定義される「所有」 

最初の部屋・チームラボ「あらゆる価値・作品の形も変わり続ける」

 

高橋)最初の部屋。チームラボの作品ですね。 Matter is Void という作品から始まります。ぱっと見、動く書道なんですけれども、この作品は新しい所有の形を実験している。NFTって、皆さんもうご存知かもしれないですが、情報あるいは形のないデジタルデータに私的な所有権(正確には所有権的なもの)を与える技術なんですね。

だけど、チームラボは、NFTを使ったらこれまでタダでそこらへんに転がっていたデータが突然他の人のものになってしまうのはちょっと変じゃね、ほんとにデータって所有できるの?みたいなことを考えるんですね。web2.0が無料で誰でも情報発信し、共有できるユートピアをつくってきたことを考えれば、web3は退行してるともいえる。だから、NFT有無に関わらず、誰でも無料でダウンロードできて、そのすべてが本物って作品を発表したんですね。

それがこのシリーズ。7種のNFTのシリーズになっているんだけど、ただし、この 「Matter is Void」っていう文字は同じようにアルゴリズムで生成されてるんだけど、この文字を書き換える権利は、NFTとして販売されている。これは、この作品をGrimes(グライムス)っていうアメリカのミュージシャンで、イーロン・マスクの元恋人が実際に書き換えて、ニューヨークタイムズスクエアで展示している時の様子です。

チームラボ《Matter is Void - Fire》© チームラボ(画像:© Pace Gallery)

高橋)例えばグライムスがこういうふうに「Paper Burns As I Write」みたいな感じで書き換えると、要はそのNFTを持っていて、無料でダウンロードした人たちも全てそのNFTのこの文字に書き換わっていく。

ここではコレクターがアーティストの役割を引き継ぎ表現する側に回っていく。それはグラフィティのよりカッコよく描ける奴が上書きしていく文化を取り込んでいると言えるし、1つの作品を複数人が書き換える度に、誰が何を描いたかで作品の価値が変化していく。グライムスが書けばさらにみんな欲しがるけど、僕が『今日のご飯は、パスタでした』みたいなことを書いたら、もう作品の価値がだだ下がりみたいな。そして、その変化が所有してる全員の作品に同期多発的に共有される、っていう、これまでにはなかった「所有」の実験が行われている。

作品名が Matter is Voidっていうんですけど、あれは仏教の色即是空からきているんです。なので『全てのあらゆるものは移ろい、とどまるものは何一つない』っていうまさにその名の通り、あらゆる価値・作品の形も変わり続けることをテーマにした作品です。

ダミアン・ハースト「アートはデジタルと物理、どっちが本当なんだろう?」

 

高橋)の作品ですね。これはご存知の人いますかね…。世界トップクラスと言われている、イギリスのダミアン・ハーストと言われる作家です。作品は高いものだと100億200億になるというような作家が、NFTを使った「The Currency」という日本語にして通貨という意味の作品を2021年に発表しています。

左:ダミアン・ハースト「貨幣」シリーズより《4071.すべて終わったら私たちを助けて》2016 Lev蔵
右:ダミアン・ハースト「貨幣」シリーズより《8348.彼女がちょっと電話してきたのは》2021 @Sudden_Dreams 蔵

高橋)ダミアン・ハーストが何をやったのか、作品自体はこういうふうにデジタルと物理を一対にして展示しているんですけども、まずは彼はですね、1万枚のドットの絵画を手書きで書くんですね。実はここにはホログラムやエンボス加工など紙幣のように偽造防止の仕組みが9つ組み込まれているんですが、それをNFT化して1万枚発行するんです。NFTアートが貨幣のように流通するそのメディウムの特性をとことん自覚的に利用する。1枚当たり大体20万円発行して、10,000エディションなので、約20億円、即日売り上げます。

ただし、買うときに1つ条件がついていて、買った人は、デジタル・現物どちらを所有するか購入したら1年後にそれを選ぶ。という条件があるんですね。ちなみに皆さんとさっきの物理とデジタルだったらどちらが欲しいですか。

※会場の半数が物理で手をあげる

​​NFTの集まりなのに保守的ですね(笑)半分くらいだ。デジタルなら欲しい方。そうですね。そうですよね。僕は個人的に物理が欲しいんですけど。

会場)両方は、ダメなんですか?
高橋)ダメなんです。
瀧原)物理1万枚デジタル1万枚両方用意して選ばせるってことですか?

高橋)そうですね。今、物理って選んだ方ですね。デジタルのNFTの方を削除されて、デジタル選んだ人はこっちの物理の方を燃やされてしまう。作品の裏に全部違うタイプが付いたりとかいろんな凝った仕組みがされています。

ライブパフォーマンスの様子 © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022

高橋)どんどん燃やされていって、消防服に身を包んだ、ダミアン・ハーストが紙を燃やしていくんですね。このとき先ほどみなさん選んでもらったデジタルと物理あると思うんですけども、絵画の物理作品の方を約5,200人程度が選んで逆に、デジタルを約4,800人が選んだ。

瀧原)結構拮抗してますね。

高橋)そうなんです。ほぼ半々で選んで、ちなみにデジタルは20万で買ったあと、1年で80万円に上がりました。絵画の方はなんと200万円上がったんですね。その後、1枚200万を4,800枚燃やしていくっていうパフォーマンスをやって、約10億円分ぐらいですね。一瞬で灰になるという。

これはシンプルに、今僕ら、PayPayやSuicaを使ってて紙のお金は全く無いじゃないですか。無くてもお金の価値を信じることができる、という風に、同じように本当にアートの価値って物理にあるのか?ということが、問いかけられています。アートはデジタルと物理、どっちが本当なんだろう?と

 

本当の作品・作品の価値とは何か

 

高橋)実はこれ、現代アートの歴史を知ってる人はですね、『こう来たか』って感じなんです。既に同じ事をやっているアーティストがいます。1970年に、これまで作った自分の絵画を全部燃やすジョン・バルデッサリっていうアメリカのコンセプチュアルアーティストとか。あるいは1992年ピラ・ドラモントといったスイスのアーティストが現金1億5,000万を燃やすっていうパフォーマンスをしてるんですけれども、そういうことをすることによって、本当の価値とは何か。本当の作品とは何か、金融商品みたいに扱われてるアートそのものを批判していくってことが行われている、ある種それを踏まえて、そのNFT版みたいですね、一体アートの価値はどこにあるのかアートとは一体何かってことが問われているというのがダミアン・ハーストの作品になります。

レア・メイアーズ「NFTのありなしで、価値がどんどん移り変わっていく」

 

高橋)次はですね。レア・メイアーズという作家の作品で、これはお祭りとかデパートの上でたまに売ってる風船のアレだなという感じだと思うんですけど。まさにその通りで。

 

レア・メイヤーズ《非真正性の証明》2021 個人蔵

高橋)実は元になってる作品がありまして、次の画像この作品知っている人いますか?

 

奥:Jeff Koons, 1994-2000《Balloon Dog (Blue)》 手前:Jeff Koons, 1986《Rabbit》

 

※会場で多くの人が手をあげる

なかなかアート通の方がいますね。皆さんこの手前の、たとえば風船のウサギの彫刻、これぐらいのサイズなんですけど、これいくらだったら欲しいですか。

手前のやつは100億円です。後ろは67億円で、実際にアメリカのブロード美術館を運営している世界一のアートコレクターが持っているんですけど、レア・メイヤーズという女性のアメリカの作家はこれを3DCGにして無料で配布するという暴挙をするんですね。

『67億の作品を誰でもタダで所有できます。しかも3Dプリントしても構いません。』ってことをやっているんです。

なぜこれが可能かっていうと、そもそも美術史には、既製品だけどさも作家の代表作のように扱われてしまう作品っていうものがいくつかあると。既製品って本来作家の著作権を取れるようなものじゃないにも関わらず。

例えば現代美術の初めにあるマルセルデュシャンの泉。男性用便器にサインしただけのものを作品にしたものや、アンディ・ウォホールのブリロ・ボックス、いまでいうAmazonの外箱ダンボールをそのまま複製しただけみたいな作品とかですね、本来それは作家の著作物ではないのに、さも著作物のように扱われてしまっているという。この「バルーン・ドッグ」もまさにそう。

でもそれが100億70億みたいな価格でやり取りされている。その錬金術の源泉がどこにあるのかを考えさせる作品です。なぜNFTと関係あるのかというと、彼女はその作品の真贋証明書だけをNFTで発売する』っていうことをやるんですよね。NFTってよくデジタルのオリジナリティとか、唯一性を保証する真贋証明書みたいな風に言われているんですが、まさにその部分だけが作品として売られた。というのがこの作品なんです。例えば皆さんと僕が全くこの皆でダウンロードして、3Dプリントをしてみんな同じものを持ってます。

メガネのお方、お名前なんでしょうか? いや、後ろ向かない。笑

※会場でのやり取り

では、Kさんだけがこの証明書を買ったとするじゃないですか。そしたらみんな持ってる中で、Kさんの作品だけがレアメイヤーの作品なんです。で、お隣の方。例えば、KさんからNFTの証明書だけを買うじゃないですか。

そうすると、今度お隣の方の作品が本物になって、他の人のものが全部偽物。みたいなことが起きてくる。それって価値がNFTのありなしで、どんどん移り変わってるんですね。もうみんな持ってるのは同じなんだけど、でもNFTのある場所によって、どんどん価値が移動していくっていうことを、意地悪に見せているんです。

NFTアートと言われてるものの価値は一体どこにあるのか、アートの価値は見た目じゃないところにあって、その見えない価値が動いていくっていうことを見せている。

ちなみに彼女は、NFT詳しい人だったらもしかしたら知ってるかもしれないですけども、NBA Top ShotやクリプトキティなどのNFTの超メジャーなプロダクトで約800億円調達しているダッパーズ・ラボっていうところの主任研究員やっていて、NFTが出てくる前からブロックチェーンにしかできない作品の表現を追求した結果、こういうものが出てきた。

鎌谷徹太郎《The Dream of a Butterfly》2023 作家蔵

鎌谷徹太郎《The Dream of a Butterfly》2023 作家蔵

鎌谷徹太郎「いったい我々は何を所有しているのか。価値はどこにあるのか」

 

高橋)花で覆われたドクロの作品をデジタルと物理の一対で出してくれました。手前の絵画の方は、実はこれ皆さん実物見たときに近くで見ていただきたいんですが、実はこれすごい華やかな絵にも見えるんですが、下地に5万匹のハエが使われていて、ハエの死骸を樹脂で固めて、それをキャンバスに花々とか動植物が美しく描かれてる。シンプルにいうと、リアルな絵画の方は放っておくと中の蠅の死骸がバラバラに崩れ落ち、いつかはキャンバスもひび割れていって、朽ち果ててしまう。この世の繁栄とか名声とか見栄えみたいなものはいつかなくなってしまうっていう、仏教絵画の九相図とか西洋画のヴァニタスって言われる主題を現代風に描いてる。

デジタルの方はイメージそのものなんだけど、物理壊れてしまうのと対照的にあるNFTなので、ブロックチェーン上に登録したら、ずっと永遠に残る。

だけれども、所有者が変わると、どこに咲いてる花とか背景がどんどん変わっていってしまうんです。

想像していただきたいんですが、例えば皆さんがモナリザを100億円で、もう全財産をつぎ込んで落札したとする。「自分のものになった、おっしゃ!モナリザが私のものになったっ!」て言う瞬間に、ポーズが変わるとか、ウインクしたらめっちゃ困るじゃないすか。でもそういうアートですね。

誰かが欲しいと思って買って所有した瞬間に別の物にどんどん変わっていく。ブロックチェーンが永遠とその所有者を記録していくって機能を利用して、作品そのものを変えていく。いったい我々は何を所有しているのか。価値はどこにあるのか。ということもこれも問いかけた作品だと思います。

 

瀧原)結構アーティスト自身もフィジカルとデジタル間で模索しながら作品制作っていうか、どこに価値があるのかみたいなのを探しながらやってる感じありますよね。

第2章 デジタル時代のアウラ 本物と偽物

ドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミン

 

高橋)次の章は本物と偽物あるいはオリジナルとコピーの違いとは一体なんだろう、本当にオリジナルの方が価値があるのかってことを考えるパートになっています。

ここは中国、オランダ、アメリカ、日本の4カ国の作家の作品を紹介しているところです。

例えば、この展覧会タイトルは超複製技術時代の芸術というタイトルがついているのですけれども、もしかしたらご存知の方もいるかもしれないんですが、このタイトルは1936年にドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミンという人が、書いた本を基にしているんです。この本がなぜ重要かというと、映画とか写真みたいなコピーする技術が出てきたときに、果たして芸術の価値はどう変わっていくんだろうかとか、それによって政治がどう変わっていくんだろうっていうのを考えた本だからなんです。

高橋)この中で面白いのは、ベンヤミンがその本物にしか宿らない力があるっていうふうに書いているところです。例えば、2枚の同じモナリザがあったとして、片方は本物、片方はコピー。でも肉眼でどんなに見ても違いがわからないとする。そのとき2つの価値は同じか?という思考実験をしてみましょう。さっきのレア・メイヤーズの作品もそうなんですけど、現代の常識として、表面上同じだったとしても、本物とコピーによって価値の差が変わる。今でも、例えばアート作品として、モナリザのオリジナルは100億円以上出しても買えない。でも、モナリザのコピーは、100円という価格で流通していくわけです。どんなに精巧であったとしても。それは一体何を意味していくのか、ベンヤミンはその価値の源泉は、本物を前にしたときにしか感じることもできない真正性みたいなものに見出し、アウラと呼んだ。それは、人・場所・時間とか本物が結びついていることに起因すると。

起源となった方は、常に時間と場所と人と結びついていて、そこには物語がある。だから、物の表面を超えて、その見えない奥行きを前にした時に人は感動できるし、価値を持つという風に考えた。でも、NFTの場合は、どうなのっていうことを改めてこの時代に戻して考えると、「NFTはコピーなんだけれども、唯一性をもつ。」「コピーなのにオリジナルライクなものになる」っていう性質を持っているわけですね、ベンヤミンの考えたことを超えた状況に我々はいる。そのような状況についてそもそもデジタルデータやコピーがオリジナルである作品を通して考えるっていうのがこのチャプターなんです。

 

瀧原)ベンヤミンの言ってたところからレベルが上がったメタ的なところで、NFTのことを問い直してる展示っていうことですね。

 

高橋)そうですね。 NFTっていうのはシンプルに言えば、希少性っていうのを人工的にプログラミングできるようになったっていう話だと思うんですね。天然のダイヤの希少性とは違って、希少性自体を捏造できるっていう技術という風に言い換えれる思うんですけれども、そういう時代におけるアウラとは一体何か、それをだから、単なる複製じゃなくて、複製を超えたもの超複製技術というふうに呼んでみよう、超複製のアウラとは何かを問うのがこの展覧会だと。

森万里子「生命の循環を表現へと変換されていく」

 

高橋)次に日本の作家で森万里子さん、テクノロジーと日本の古代神話みたいなものを掛け合わせて作品を作る作家さんで、森ビルのご令嬢でもあるってちょっと変わった方です。まず1対の不思議な生命体みたいな映像が制作されました。その後、それを3Dの彫刻として現実にダウンロードしてギャラリーに展示しています。

 

森万里子《Eternal Mass》2014-2023 作家蔵

 

この形態は一体何なのかっていうと、カラビ・ヤウ(CalabiーYau manifold)多様体と言われているものから着想を得ています。

※カラビ・ヤウ(CalabiーYau manifold)多様体…代数幾何などの数学の諸分野や数理物理で注目を浴びている特別なタイプの多様体のこと

 

重力や電磁力を統合する理論のひとつである超紐理論では『我々の生きている次元は、実は10次元ある』っていうふうに言われてるんですけれども、それによるとこの世界は縦、横、高さ+時間に加えて、人間には知覚できない超極小の6次元がさらに折り畳まれている。その見えない次元が、原子の振る舞いとか量子の振る舞いをコントロールしてるんですけど、それを数学的に展開するとこのような幾何学的形態になり、それは必ず対になって存在していると考えられている。

 

つまり、あらゆるものは根本的に対として存在している。生命の多くは対になって新たな生命をつくるし、例えば日本の神話も、イザナギとイザナミが対になって生まれてきて世界を創造する。世界の始まりは、あるいは生命の始まりというのは、対として存在する。じゃあ、その世界や生命の始まりを一元的に表現できる視覚的な造形の大統一理論をつくったのがこの作品なんですね。

NFTとどこが関係しているかっていうと、このつぶつぶ、真珠の一つ一つが実はNFTとして配布されていて、これ買った人たち同士でかけ合わせると、そうすると新しいつぶつぶがポコって生まれてきて、それをmintして新しいNFTがゲットできる。それを2人で持ってもいいし、誰かに与えてもいいし、どちらかが持ってもいい。NFTを介した経済的なその取引の履歴そのものが、互いに愛を与えて、新しい生命を育むっていうような、ある種の生命の循環を表現へと変換されていくっていうような美しい作品ですね。

 

第三章 公共性・DAO

藤幡正樹「ゆるい見た目に反して、スーパーパンクな作品」

 

高橋)3章ではもう少し別の角度から、NFTが作り出す新しい公共性という視点から作品を紹介していて、例えば、藤幡正樹さんってメディアアートの作家で、これ何かちょっとぱっと見遠くからじゃわかんないかもしれないけど、皆さんのどこが芸術なの? もう近くで見たらもうただの落書きしか見えないっていうタイプの作品なんですね。

藤幡さんは1980年頃のMacに眠ってた落書きや書き損じ、ドローイングを30点を発掘してくる。

藤幡正樹《Brave New Commons》2022 作家蔵

高橋)そして、その落書きをひとつ100万円で販売するようなことをする。ただし売り方がちょっと特殊で、通常のオークションは欲しい人が増えれば増えるほど価格はどんどん上がっていくじゃないですか。もうこれは真逆。欲しい人が増えれば増えるほど、価格がゼロに近づいていくっていう作品なんです。

 

シンプルに言えば、いまのほとんどのNFTって要はこれまでタダで転がってた画像のようなものに希少性を人工的に付与して、欲しい人をどんどん増やしていって高額で売りつけている。AIが作った何万点の画像を、さも、希少性があるように見せて、どんどん価値を上げていくっていうそういうタイプのものなんですけども、これはその逆、NFTを使って価値を限りなく下げていくっていう作品なんですね。真ん中の金色のやつとかは100万円だけど、最終的には1,091人が買ってるので1,000円ちょっとで買えた。でも端の方にあるやつはですね1人しか買わなかったんで、その人は100万くらいで買わないといけなかった。でも、本当に自分がいいと思ったら、一緒に買えばもっと安く買えるから、作品の良さをどんどん伝えて、欲しい人も増えて、作品もシェアされて、未来の誰かの占有物じゃなくて欲しい人全員が持てるような作品。

NFTという技術が生み出すかもしれない、インターネットに転がってるあらゆるデータが売り買いの対象になって、ネットでさえ何もかも資本主義化してしまうという悪夢みたいな未来に介入していく。NFTを使って価値を上げるのではなく、価値を下げていくという、ゆるい見た目に反して、スーパーパンクな作品です。

 


 

中編:Jerry KOUさんから海外web3コミュニティ事例についてのお話へ続く

超複製技術時代の芸術:NFTはアートの何を変えるのか?
展示の詳細についてはこちら↓(展覧会会期は終了してます)
https://gyre-omotesando.com/artandgallery/nft-art/

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