本展のタイトルは、世界的なシェアを誇る老舗旅行ガイドブック「ロンリープラネット」の名前が、ある歌詞の聞き間違いから生まれたことに親近感を覚えた荒木によってつけられた。そこには、青森を旅するように訪ね歩き、本展に登場する人々・風景・モチーフと偶然遭遇した作家の心境が重ねられている。本展ではこれまでのリサーチを経て展開した新作の映像作品4点と過去作品3点（予定）を公開する。異なる軌道を描く惑星のように独立した作品の数々は、真冬の十和田で偶発的に接近しあい、一つの天体を展示室に生み出す。

【作品紹介】

青森で出演者をキャスティングし撮影を敢行した新作《NEW HORIZON》

十和田近郊の住民の協力を得て撮影されたインタビューと壮大な青森の風景を交えた新作《NEW HORIZON》を、本展で初公開する。青森で「異邦人」として暮らす人々が体験したユーモラスなカルチャーギャップから、日本とアメリカの近現代史と現在に至る関係性まで展開する本作は、ローカルと普遍的な視点を両立する必見の新作となる。

オスカー像のシリーズの新作を東北のモチーフで制作

世界各地の職人に、アカデミー賞受賞者に授与されるオスカー像の複製を依頼した《Ólafur》(2014)《JB》(2022)を展示する。さらに本展のために、荒木は東北地方の多様なジャンルの職人をリサーチし、新作を2点制作した。愛らしい印象ながら、オリジナル/複製という二分化の境界を軽妙に揺らがせるオスカー像と映像作品を一挙公開する。

アニメーション作品をインスタレーションとして展開する初の試み

新作のアニメーションを組み込んだインスタレーション作品を初公開する。これまで荒木は《THE LAST BALL》(2019)や《HONELYMOON》(2020)のように映像をインスタレーションで展開してきた。本展の新作でも、映像というメディアの特性や、それを形作る現象を活かした鑑賞体験を生み出す。

【作家メッセージ】

このたび念願叶いまして、美術館での初個展を十和田市現代美術館で開いていただけることになり、とても幸せに思っております。東北は私にとってルーツであり、特に雪がもたらす冬の静寂さと独特な光の回り方は、原風景として眼と耳に深く刻まれています。そういった記憶の中の風景は、部活帰りであれスキーをしているときであれ、常に雪景色の中にポツンと居る自分自身を確認したときのものでした。あの頃から四半世紀が過ぎ、今日まで森を彷徨いながら、ふと振り返るとパン屑のように作品たちが在りました。それらは、道に迷わないようにと確かに自分で撒いたものなのですが、かつての森はいつの間にか宇宙空間に変わり、パン屑たちは惑星*となってそれぞれ公転を始めていました。今回展示する作品の中には、初出から十年以上経っているものもあります。日々目まぐるしく時が過ぎ、たくさんの情報が流星群のように降ってきている現代で、地上にたどり着く前に燃え尽きてしまうような便りもあれば、衝突し、大きなクレーターを残していく悲しい報せもあります。受け止めきれないくらいの星屑を纏い、制作という名の周期をもって、正気を保っている今日この頃です。惑いながらの最新の挑戦を、ぜひ深雪とともに体験していただけますと幸いに存じます。

*惑星（Planet）の語源はギリシア語で「彷徨う者」」を意味する「プラネーテス（πλάνητε㽞）」に由来し、またそれを「惑う星」と漢訳語を考えたのは長崎のオランダ通詞である本木良永の仕事だと云われている。和暦で寛永4年、西暦1792年のことだ。

荒木悠（あらき・ゆう）

アーティスト・映画監督。1985 年生まれ。2007 年ワシントン大学サム・フォックス視覚芸術学部美術学科彫刻専攻卒業。2010 年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修士課程 修了。文化の伝播や異文化同士の出会い、またその過程で生じる誤訳や誤解の持つ可能性に強い関心を寄せている。特に、近年の映像インスタレーションでは、歴史上の出来事と空想との狭間に差異を見出し、再現・再演・再生といった表現手法で探究している。主な展覧会と映画祭に、 「Memory Palace in Ruins」（台湾現代文化実験場、台北、2023）、「恵比寿映像祭 2023 コミッション・プロジェクト」(東京都写真美術館）、ホームビデオ・プロジェクト「テールズ アウト」(大阪中之島美術館、2022）、第31回マルセイユ国際映画祭（フランス、2021）、 「Connections―海を越える憧れ、日本とフランスの 150年」(ポーラ美術館、神奈川、2020 )、 「LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」(資生堂ギャラリー、東京、2019）、「The Island of the Colorblind」（アート ソンジェ・センター、ソウル、韓国、2019）、第 47 回ロッテルダム国際映画祭（オランダ、2018）など。