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  • Mar. 27, 2023

  • 人物 ヒトモノ
    <5 ☞ 日本画家 岡本秀>

  • 青柳 龍太 / 現代美術作家

 

 

 

 

青柳 龍太 / RYOTA AOYAGI

現代美術作家
多摩美術大学卒業  2014年にギャラリー小柳にて杉本博司、ソフィカルとの三人展「unsold」。2019年に、ギャラリー小柳にて個展「sign」。2020年に、日本橋高島屋、大阪高島屋における「民藝展」にて「これからの民藝」というテーマでインスタレーションを担当など。2018年から美術手帖にて、連載「我、発見せり。」をスタート。

 

 

ずっと昔に、骨董の大先輩に教えられた大切な事がある。

 

モノには形がある。
本当に良いモノは、必ずそれぞれの時代の空気感を体現している。と。
平安のモノは平安の。
江戸のモノは江戸の。
そしてきっと令和のモノは令和の。

 

この言葉は印象深く僕の心に強く残っている。

言われてみれば当たり前の事なのだが、意識せずにモノを見ていると意外とこの事実には気がつかない。それぞれの時代にそれぞれの今を生きながら表現をするのだから、今という時代に影響を受けないわけはないし、今を生きていない人間に優れた表現など出来るわけがない。

そして今とは、連続しながら、しかし絶え間なく変化し続けて、いつの間にか次の時代へと移行してゆく。

かつてそうであったように、今も、それぞれの世代で新しい感覚を持って、また新しい流行や、少し時が過ぎれば文化を形成していっている人々がいるのではないか。

偶然なのか、必然なのか、同時多発的に幾人かの若者によって。

まだ自分にとっても不確かな、しかし、なんらかの流れがあると感じる事を、2020年代とはどんな時代であったのかと、またいつか振り返る為にも、ここに、寄り道もしながら書き残しておきたいと思う。

5 ☞ 日本画家 岡本秀

 

絵描きはもしかしたらアーティストにとって憧れの存在であり、僕にとっては同時に、ズルいよな君たちはと内心思っている存在でもある。

もちろん絵描きの皆さんも大変な苦労をしている事は知っていますが、それでも間違いなく現代アートの様々なジャンルの中で一番値段がつきやすいのは絵画だろう。インスタレーションや、コンセプチュアルアートは、普通の住宅には飾れないし、そもそも要らない作品であり、売れなくて当然のジャンル。僕だってインスタレーションを購入した事なんてまだ一度もありません。

ならあなたも画家になれば良かったじゃないですか。と言われるかも知れませんが、残念ながら、僕には壊滅的に絵画の才能がありませんでした。

美術予備校のデッサンの講評の時間に、先生に言われた言葉が忘れられません。

「君はどうして見たままに描かないの?」

いいえ、見たまんまに描いているつもりなんです、自分なりに、、、。

閑話休題。

普段、自分はそれほどギャラリーや美術館に行かない人間なのですが、その日はたまたま哲学の道にあるお気に入りの蕎麦屋で昼ご飯を食べた後に自転車で通りかかったギャラリーを覗いてみた。

《サザエ》
撮影:Akane Shirai

《藪》
撮影:Akane Shirai

《簾のある画面》
撮影:Akane Shirai

上半分異常に間延びした空間に、不気味な静寂と共に佇む若者と老人の絵。抽象で何が描かれているのか分からない絵。簾が描かれた騙し絵のような絵。初めて見る画家の絵なので、それらのモチーフが何を意味しているのか僕には分からなかったし、理解しようとも思わなかった。それでもすぐには離れ難く、しばらく何かを確認するようにそれらの絵を眺めていたのは、色彩と表面の質感が美しかったから。柔らかなパステルカラーに、土壁または漆喰を思わせる肌。藤田嗣治は乳白色の肌に、優美な一本の線で、輪郭を描いたが、その日、見た彼の絵はヘロヘロと揺れながら、しかしそれでも小気味よく有機的な線で輪郭が描かれていた。上手いのか下手なのか、よく分からない。でも気になる。

ギャラリストに、ちょうど今、違う会場でも展覧会をしていますと案内されて、好奇心のまま、そちらにも行ってみると、また全く作風の違う絵が並べられていた。不気味な宗教めいた儀式をしている数人の若者の大きな絵。他は夏休みの絵日記のような小さな絵が数枚。前の会場と共通しているのは、やはり色彩と質感。もしかしたら、僕はこの人の絵が好きかもしれない。一枚、あっこれ欲しいと思いプライスリストを確認し、その一枚だけが売れているのを知った時に、悔しさと共に僕はようやくそう気がついた。

手前《天空》
奥 データ/倣速水御舟《翠苔緑芝》
撮影:青柳龍太

《別名で保存_Save_point》
撮影:Yuji lmamura

陶磁器についてならいくらでも語れる気がする。

が、絵についてとなると、僕はどう説明すればよいのか分からない。分からないながらも話を進めよう。気になったら、我慢が出来なくなる僕はコレクターとの食事とかなんとか理由をつけて、日本画家岡本秀さんを数日後に呼び出してみた。

はたしてそこに現れた彼は素朴でシャイな小動物のような人だった。絵の事や、彼自身の事をいくら聞いても、彼から発せられるたどたどしい言葉では、その全体像は漠として掴めない。

さっぱり何を言っているのかは理解出来なかったが、彼の絵画理論を僕が理解する必要もない。

理解出来はしなかったが、岡本さんが、なんらかの彼独自の考えや、思想を持って、または確かにそれらを模索しながら作家活動をしている事だけは分かった。これは信頼出来る、僕はそう感じた。そこに思想があるのならば、焦らずともいずれそれらは、語るまでもなく、絵に必ず現れてくるだろう。僕にとって岡本さんの絵の素晴らしさは、まずその色彩と質感にある。それは彼の思想より先にあった、彼自身が持って生まれた優れた感覚だろう。その感覚こそが彼の強さではないだろうか。

そしてもう一つ、岡本さんの絵には特筆すべき特徴がある。それは漫画のようなタッチである事。下手なのか上手いのか分からないと先ほど言ったのは、日本画という固定概念の視座から絵を見ていたから。漫画のようだと理解したならば、その飄々とした軽やかなタッチは実に違和感がない。いや、むしろ、日本画である事と、そのタッチのアンバランスさが、より深い面白さ、オリジナリティに繋がっていると思う。

 

《建てると演じる/襖絵のある画面》
撮影:岡本秀

《くくるく療法》
撮影:Akane Shirai

しばらく前からジャパンアニメ的な絵画が評価されている風潮があるが、岡本さんの絵は、それらとも一線を画している。その違いはなんであるのだろうという疑問を抱いたまま、何度か岡本さんをうちに呼び出して、のらりくらりと尋問を続けた結果、その理由がようやく分かった。

なんと彼は漫画家だったのだ。厳密に言うと、つげ義春が大好きで、密かにほとんど誰にも見せない漫画を描き続けている日本画家志望の漫画家。

 

画家がデフォルメさせた漫画風の絵ではなく、漫画家が描いている日本画なのだと理解した時、僕は色々腑に落ちた。今、28歳の岡本さんにはきっとまだまだこれから沢山の時間が待っているのだろう。であるのならば彼がこれから描き続ける絵がいつか、全て繋がって一つの壮大な物語の漫画となるのを楽しみにしたいと僕は思った。

 

岡本さん、願わくば、まだ僕が生きている間に、それがどんな物語だったのかを教えてください。これからの連載を期待しています。

日本画家 岡本秀

 

岡本 秀 / Shu Okamoto

https://www.okamotoshu.com/

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