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  • Apr. 30, 2022

  • 人物 ヒトモノ 
    < 2  ☞ itou  伊藤槙吾 >

  • 青柳 龍太 / 現代美術作家

 

 

 

 

 

 

青柳 龍太 / RYOTA AOYAGI

現代美術作家
多摩美術大学卒業  2014年にギャラリー小柳にて杉本博司、ソフィカルとの三人展「unsold」。2019年に、ギャラリー小柳にて個展「sign」。2020年に、日本橋高島屋、大阪高島屋における「民藝展」にて「これからの民藝」というテーマでインスタレーションを担当など。2018年から美術手帖にて、連載「我、発見せり。」をスタート。

ずっと昔に、骨董の大先輩に教えられた大切な事がある。

 

モノには形がある。
本当に良いモノは、必ずそれぞれの時代の空気感を体現している。と。
平安のモノは平安の。
江戸のモノは江戸の。
そしてきっと令和のモノは令和の。

 

この言葉は印象深く僕の心に強く残っている。

 

言われてみれば当たり前の事なのだが、意識せずにモノを見ていると意外とこの事実には気がつかない。それぞれの時代にそれぞれの今を生きながら表現をするのだから、今という時代に影響を受けないわけはないし、今を生きていない人間に優れた表現など出来るわけがない。

 

そして今とは、連続しながら、しかし絶え間なく変化し続けて、いつの間にか次の時代へと移行してゆく。

かつてそうであったように、今も、それぞれの世代で新しい感覚を持って、また新しい流行や、少し時が過ぎれば文化を形成していっている人々がいるのではないか。

偶然なのか、必然なのか、同時多発的に幾人かの若者によって。

 

まだ自分にとっても不確かな、しかし、なんらかの流れがあると感じる事を、2020年代とはどんな時代であったのかと、またいつか振り返る為にも、ここに、寄り道もしながら書き残しておきたいと思う。

2  ☞ itou  伊藤槙吾

 

これからどのように変化していくのか予想が出来ないという意味も含めて、京都の古道具屋でitouの存在は避けて通るわけにはいかない。

古道具屋という枠組みで良いのかすら、まだよく分からない。古美術のみを好きな人からすれば、全く邪道で、ふざけた商いにすら見えてしまうかもしれない。しかし3年前に始まった平安蚤の市の中でもitouは異彩を放ち、京都において、ある流行を担う若手の中心的な存在である事は間違いないだろう。

 

ハローキティのような人形、ネコバスのようなオブジェ、スヌーピーだかウッドストックだか判別出来ない縫いぐるみ。これらはきちんと生産されたプロダクトではなく、恐らくは素人が作った、なにかだ。間の抜けた大らかさと同時に、微妙な違和感がもたらす笑ってしまうくだらなさが、なんとも憎めない。

また陶磁器好きの僕はどうしても陶磁器をチェックしてしまうのだが、itouにある陶磁器もやはり素人が作った、なにかだ。分厚過ぎたり、重すぎたり、形も歪。轆轤ではなく、手捻りですね!という事になるのだろうか、、、。他の場所で見つけたら、きっと、いや間違いなく、僕の記憶に残る事もなく、スルーしてしまうだろう。それがitouに陳列されていると、なんともチャーミングな品々に見えてくるから侮れない。

 

そんなitouで密かに僕が楽しみにしている事がある。それは値段。他の店で同じ値段を提示されたら、思わず、は?と聞き直すかもしれないが、itouでは高ければ高いほど盛り上がってしまう。500円です。と言われるより、18000円です。と言われた方が小気味良い。だって安かったら当たり前でつまんないじゃん。おおおと怯みながらも納得してしまう。そもそも相場などない品々。itouの価値観を顕著に示すのがその価格設定だと僕は思っている。itou的完成度の高いレアアイテムにはきちんとしたお値段という称号が与えられ実に堂々と魅力的なお品として鎮座している。それだけに買い手側も、高いか安いかではなく、自分が欲しいか欲しくないか、その気持ちだけがクリアになる。

 

イトーちゃんは京都工芸繊維大学でインテリアプロダクトを学んだそうだ。大学在学中、四回生で23歳の時に店を始めたというからその意識の高さに驚かされる。住んでいた古いアパートの六畳間がお店で、奥の三畳間で寝ていたらしい。(使っている家財道具も売っていたのかな、、、?とても興味深い。)

 

なぜお店を始める事にしたのですか?という問いにはこう答えてくれた。まずなにより就職したくなかった事。そして自分で、ゼロから作るのは向いていないと感じ、デザインはやりたくないと考えていた。古道具を要素として、そこから空間を作る方が自分には合っていると気がついたと。とはいえ僕はイトーちゃんがプロダクトデザインを学んでいたと聞いて腑に落ちた。なぜならもちろん古美術ではなく、そして単なる古道具でもなく、イトーちゃんのお店を見て感じる事は、やはり若いデザイン的な感性だから。一つ一つのモノを見ても分からないが、それらを組み合わせた空間は、奇妙にお洒落で絶妙なバランスを保っている。お金の為に作られたモノではなく、趣味的に作られたモノの方が人間性が出ている気がして好きというイトーちゃんの言葉も分かりやすい。プロダクトでは収まりきれない人間臭さを嗜好するイトーちゃんの感性が、これらの品々を呼び集めているのだろう。

 

開店して7年が過ぎたというイトーちゃんの店は毎年毎年それぞれに面白く、それでいて見事なスピードで変化していくのではないかと僕は予想している。いつかいっそ、縫いぐるみも陶磁器もイトーちゃんの手作りになっていたらどうしようなんて想像も面白い。間違いなく言えるのは、このチャーミングさを損なう事なく、イトーちゃんの店はこれからもっともっとカッコ良くなっていくだろうという事。僕には絶対に真似出来ないこのイトーちゃんならではの独特な絶妙さがどう完成していくのか、僕は楽しみでならない。どうしよう、なにか買ってしまうかもという不安にも似た期待を胸にitouに通ってしまう僕がここにいる。ピンクの変な動物の絵まだ店にありますか?まだあったら買っちゃおうかなあと迷いながら。

itou  伊藤槙吾

【information】

営業日:20日〜月末日(25日休み)

営業時間:12:00~18:00

※おおよそ平安蚤の市へ出店

住所:京都府京都市左京区一乗寺出口町7 2F

URL : https://itou-mono.com/

 

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