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  • Feb. 28, 2022

  • 人物 ヒトモノ
    < 1  ☞ bild  酒井啓 >

  • 青柳 龍太 / 現代美術作家

 

 

 

 

青柳 龍太 / RYOTA AOYAGI

現代美術作家
多摩美術大学卒業  2014年にギャラリー小柳にて杉本博司、ソフィカルとの三人展「unsold」。2019年に、ギャラリー小柳にて個展「sign」。2020年に、日本橋高島屋、大阪高島屋における「民藝展」にて「これからの民藝」というテーマでインスタレーションを担当など。2018年から美術手帖にて、連載「我、発見せり。」をスタート。

ずっと昔に、骨董の大先輩に教えられた大切な事がある。

 

モノには形がある。
本当に良いモノは、必ずそれぞれの時代の空気感を体現している。と。
平安のモノは平安の。
江戸のモノは江戸の。
そしてきっと令和のモノは令和の。

 

この言葉は印象深く僕の心に強く残っている。

 

言われてみれば当たり前の事なのだが、意識せずにモノを見ていると意外とこの事実には気がつかない。それぞれの時代にそれぞれの今を生きながら表現をするのだから、今という時代に影響を受けないわけはないし、今を生きていない人間に優れた表現など出来るわけがない。

 

そして今とは、連続しながら、しかし絶え間なく変化し続けて、いつの間にか次の時代へと移行してゆく。

かつて目白にあった古道具坂田の美意識は、僕にとってはそれ以前とそれ以降に分断されるほど、その当時の今の価値観を揺さぶるものだったと記憶している。そして同時多発的に、感覚の優れた工芸作家やデザイナーが現れた。

それは偶然なのか必然なのか。
僕よりは一回りあるいはそれ以上歳の離れた彼らの仕事を僕は遠巻きに眺めていた。
少なくとも僕にとっては、共感出来る、または本物だと感じられる力量のある人々であり、今から振り返れば、確かに2000年代に、あるムーブメントがあったように思う。
機会があり去年、それらの人々と会い、その暮らしぶりを垣間見る事が出来た。
生活道具を作る人間の日常は、やはり丁寧に大切に営まれており、家で使う品々も一つ一つきちんと選び抜かれていた。
なるほど、仕事に嘘がないわけだ。美しい工芸作品を作る人間がおざなりの生活道具で暮らしていたら説得力がないだろう。なるべくしてなっていた人々だったのだと改めて納得した。あの時代は僕自身が骨董という道に興味を持ち始めたばかりという事もあり、本当に楽しかった。実家にあった、誰が選んだのか、いつからあるのかも分からない見慣れた道具ではなく、きちんと意識された、それでいて単なる装飾品ではなく、実を伴って美しい日常の品々。
そしてある感覚を理解し、それを作る人、また選ぶ人。確かな手応えとともに、才能のある人達が集まっていた。

 

あれから20年。

古道具坂田の美意識は個人の趣味を越えて、今は文化と成ったと言えるのではないだろうか。

古道具坂田を知らない若者が、いともたやすく、軽やかに、かつてならガラクタと呼ばれて打ち捨てられていた品々を、実に堂々と販売している。こんなモノに値段をつけたら顰蹙を買うだろうかなどという恐れは彼らにはない。

もちろんそれは彼らが知ろうが知るまいが、先人が歩んできた道がそこに在るからでもあるのだが、彼らは決してそれをコピーしているわけではない。彼らは彼らなりに、今を生き、今を表現しているのだ。

かつてそうであったように、今も、それぞれの世代で新しい感覚を持って、また新しい流行や、少し時が過ぎれば文化を形成していっている人々がいるのではないか。

偶然なのか、必然なのか、同時多発的に幾人かの若者によって。

まだ自分にとっても不確かな、しかし、なんらかの流れがあると感じる事を、2020年代とはどんな時代であったのかと、またいつか振り返る為にも、ここに、寄り道もしながら書き残しておきたいと思う。

1  ☞ bild  酒井啓

 

京都にbildという古道具屋がある。

若い酒井啓さんが、平日はSOWGENという古道具屋で店長として働きながら、日曜日だけオープンしている店。

 

最初に訪れたのは確か2年ほど前の暑い夏の日。

とっくにオープンしているはずの時間に到着したのだが、どうも店内は薄暗い。

ドアをノックすると、迷惑そうに、今日は14時からのオープンなんですと言われ、そのまま炎天下の中、僕は二時間近く待たされたように記憶している。また二回目の訪問時も営業時間に訪れたはずなのに、やはり店内は薄暗い。

ひとけがないので外で待っていると、30分ほどして啓さんが、可愛い彼女と一緒に店から出てきた。そして、やはり迷惑そうに、今日は臨時休業なんです。と言い、彼らは二人で仲良く軽自動車に乗って出掛けて行ってしまった。

軽やかに走り去る車を見送りながら、「良い休日を。仲良くね。」なんて心の中で呟き、これが京都の洗礼なのだろうかと一人、苦笑いした。

とは言え、悪い印象だったのかと聞かれれば、必ずしもそういうわけではない。

それは啓さんという人間の人柄が成せる技。そんな仕打ちにあったとしても、どうにも爽やかでシャイな男なのだという印象は変わらない。

 

それは間違いなく、彼が選ぶ品々にも表れている。少し燻んだパステルカラー。ベースの感覚は工業製品にあるのだろう。形はシンプルに丸、三角、四角。日焼けした紙、錆びた鉄、剥げたペンキ。それらのガラクタが、儚く、軽やかに軽やかに、元牛乳屋だという空間に小気味良く配置されている。まるで水彩画のように。元牛乳屋というのもなんだか彼に相応しい。新鮮で真っ白な牛乳。デザインやアートの分野にも興味がある事がうかがえる啓さんは、工業製品やアンティーク家具を独学し、そして今は匿名性のある、なんでもない品々に辿り着いたそうだ。それこそ彼が扱う品々は、少し前までならお金にならないと廃棄されていたモノがほとんどだ。それだけに、この世にもしかしたらまだ沢山存在するのかも知れないが、市場に流通しないがゆえに仕入れるのは、なかなか骨の折れる作業だろう。そこに行けば必ず手に入るという種類のモノではなく、在る場所には在る、けれども、何処をどう探せばいいのか分からない品々。

だから店を見たら彼がどれだけ時間をかけて、コツコツと丁寧に集めて来たのかが良く分かる。

 

そして、この店にある品は全て彼に大切にされている。bildに来て、一番、僕の心に響いた事。それはこの店主はモノが好きだからこそ古道具屋になったのだという、そんな当たり前の事。

 

だからこそ居心地良く、だからこそ信用出来る。

これほど確かな事はない。

かつて僕が見てきた先達もそうだった。

20年前に麻布十番をワクワク歩いていた時の気持ちもそうだった。

いつの間にか、モノを見慣れてしまい、麻痺してしまっていた自分に気がつかされた。

 

好きこそモノの上手なれ。

 

彼が始めた仕事はいつか個人の趣味を越えて、きっとまた誰か、未来の若い人の心に届くだろう。

2021年の年末にSOWGENを退社し啓さんは、bildを4月2日にリニューアルオープンさせ、これからはbildを本業に、退路を絶って独り立ちする。売れない日もあるだろう、売る品がない日もあるだろう。これからの試行錯誤が彼の感性をより鋭く研ぎ澄ましてゆく事を僕は知っている。

 

深度と精度を増して彼がどんなモノを見つけて来てくれるのか。

 

美しいモノとの出会いを求めて、僕はまた彼の店の前で静かに待つ事としよう。

 

bild  酒井啓

【information】

bild
営業時間:12:00-18:00
営業日:基本 金土日+平安蚤の市開催日
※月によって変更有り HP、Instagramに情報掲載
住所:〒606-8425 京都府京都市左京区鹿ヶ谷西寺ノ前町112-102
URL:後日追記予定

 【4/4追記】
リニューアルオープンは五月中に延期予定。
詳しくはInstagramをチェックしてください。

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