OUR ART IN
OUR TIME
12
2024
EXHIBITION
INFO
柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」
東京国立近代美術館
2021.10.26 - 2022.2.13
ポスタービジュアル(《羽広鉄瓶》山形県 1934年頃
日本民藝館)
今、なぜ「民藝」に注目が集まっているのだろうか。「暮らし」を豊かにデザインすることに人々の関心が向かっているからなのか。それとも、日本にまだ残されている地方色や伝統的な手仕事に対する興味からなのか。いずれにせよ、およそ100年も前に柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎が作り出した新しい美の概念が、今なお人々を触発し続けているのは驚くべきことだ。「民藝」という言葉が生まれたのは1925年12月末のこと。民藝の思想の種がまかれてから、およそ100年(正確にいうと「民藝」誕生から96年)。柳宗悦の没後60年に開催される本展では、時代とともに変化し続けた民藝の試みを俯瞰的な視点からとらえなおす。
《羽広(はびろ)鉄瓶》 山形県・羽前山形 1934年頃
日本民藝館
「民藝」とは、「民衆的工芸」を略した言葉だ。民藝運動が生まれたのは、近代の眼がローカルなものを発見していくという「捻じれ」をはらんだ時代だ。柳らは、若くして西洋の情報に触れ、モダンに目覚めた世代でありながら、それまで見過ごされてきた日常の生活道具の中に潜む美を見出し、工芸を通して生活と社会を美的に変革しようと試みた。
《スリップウェア鶏文鉢(とりもんはち)》
イギリス 18世紀後半 日本民藝館
ホームスパンを着用する柳宗悦 日本民藝館にて 1948年
写真提供:日本民藝館
本展は、柳らが蒐集した陶磁器、染織、木工、蓑、籠、ざるなどの暮らしの道具類や大津絵といった民画のコレクションとともに出版物、写真、映像などの同時代資料を展示し、総点数400点を超える作品と資料を通して、民藝とその内外に広がる社会、歴史や経済を浮かび上がらせる。
なぜ今、「東京」「国立」「近代」「美術」館で民藝の展覧会なのか?
“第一に、近代美術館は官設であるが、民藝館は私設である。つまり「官」と「野」の違ひである。”“近代美術館は「現代の眼」を標榜(ひょうぼう)してゐる。併(しか)し民藝館は「日本の眼」に立たうとする。”
“近代美術館は、その名称が標榜してゐる如く、「近代」に主眼が置かれる。民藝館の方は、展示する品物に、別に「近代」を標榜しない。”
“近代美術館が今迄取り扱った材料を見ると、大部分が所謂(いわゆる)「美術」であって、「工藝」の部門とは縁がまだ薄い。”
柳宗悦「近代美術館と民藝館」『民藝』第64号 (1958年4月1日発行)
東京国立近代美術館は、開館(1952年)まもない頃、晩年の柳宗悦からこのような「批判文」を投げかけられている。たしかに東京国立近代美術館の名称はすべて柳が対抗しようとしたものばかり。(「東京⇔地方」/「官⇔民」/「近代⇔前近代」/「美術⇔工芸」)
東京国立近代美術館も、まもなく開館70年。民藝運動と同様に、時代とともに変化してきた。
本展は63年前、柳から投げかけられた辛辣な「お叱り」 今、どのように返球するのか、というチャレンジでもあるようだ。「近代」という時代と「美術」という領域を扱う東京国立近代美術館の展示空間と民藝の間にいったいどんな化学変化が生まれるだろうか。
《染付秋草文面取壺》(瓢形瓶(ひょうけいへい)部分) 朝鮮半島 18世紀前半 日本民藝館
《自在掛(じざいかけ) 大黒》 北陸地方 江戸時代 19世紀 日本民藝館
雑誌『工藝』第1号-第3号 1931年(型染・装幀 芹沢銈介) 写真提供:日本民藝館
今回とりわけ注目するのは、「美術館」「出版」「流通」という三本柱を掲げた民藝のモダンな「編集」手法と、それぞれの地方の人・モノ・情報をつないで協働した民藝のローカルなネットワークだ。民藝の実践は、美しい「モノ」の蒐集にとどまらず、新作民藝の生産から流通までの仕組み作り、あるいは農村地方の生活改善といった社会の問題提起、衣食住の提案、景観保存にまで広がった。「近代」の終焉が語られて久しい今、持続可能な社会や暮らしとはどのようなものか―「既にある地域資源」を発見し、人・モノ・情報の関係を編みなおしてきた民藝運動の可能性を「近代美術館」という場から見つめなおす。
《緑黒釉掛分(りょくこくゆうかけわけ)皿》 (デザイン指導:吉田璋也)鳥取県・牛ノ戸 1930年代 日本民藝館
《ににぐりネクタイ》(デザイン指導:吉田璋也) 鳥取県 1931年デザイン 鳥取民藝美術館
撮影:白岡晃
《藁沓(わらぐつ)》 山形県 1940年頃 日本民藝館
《垢取(あかと)り》 沖縄県・糸満 1939年頃 日本民藝館
柳宗理デザイン《黒土瓶》 京都五条坂窯 1958年 柳工業デザイン研究会(金沢美術工芸大学寄託)
【information】
展覧会名:柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」
会期:2021年10月26日(火)〜2022年2月13日(日)
会場:東京国立近代美術館
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
休館日:月曜日(ただし1月10日は開館)、年末年始(12月28日〜1月1日)、1月11日
*来館前に展覧会公式サイト等で開館時間や観覧料等の最新情報をご確認ください。*会期中一部展示替えがあります。前期 10月26日(火)-12月19日(日) 後期 12月21日(火)-2月13日(日)
展覧会公式URL:https://mingei100.jp