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【連載 Art To Business vol.1】 アートは同質化しやすい企業に多様性をもたらす 松本大 マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO | KAMADO Our Art in Our Time

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  • Dec. 11, 2020

  • 【連載 Art To Business vol.1】
    アートは同質化しやすい企業に多様性をもたらす

  • 松本大 
    マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO

  • writer NAOKO FUKUI
    photographer YUBA HAYASHI
    editor NAOMI KAKIUCHI

 

 

松本大

マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO
1963年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部を卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社に入社。その後ゴールドマン・サックス証券勤務を経て99年にマネックス証券株式会社を設立。翌年、東証マザーズ上場、後に東証一部に市場変更。現在、マネックスグループ 代表執行役社長CEO、マネックス証券の取締役会長を務める。著書に「私の仕事術」(講談社)、「お金という人生の呪縛について」(幻冬舎)、「お金の正体」(宝島社)など。

 

 

 

 

 

アートはちょっと変わった親戚のようなもの、付き合っていくのは当たり前でしょう

 

そう話すのは、オンライン証券会社の草分け、マネックスグループ株式会社(以下、マネックス)社長の松本大さん(以下、松本さん)だ。マネックスは現代アートの公募プログラム「ART IN THE OFFICE」を2008年から13年継続して開催している。

 

金融とアート。一見すると距離があるように感じる2つだが、松本さんはなぜこのようなプログラムを始めたのだろう。松本さんにとってのアートとは、そしてアートが企業にもたらす価値とは。

 

「ART IN THE OFFICE」の取り組みと、松本さんへのインタビューから探ってみたい。

橋本 晶子《There is something I want to talk about.》ART IN THE OFFICE 2017 受賞作家

株主・投資家向けの統合報告書の表紙

オフィス空間に表現された、生命の営み

 

 

「ART IN THE OFFICE」は、マネックスがNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト](以下、AIT)の運営協力を得て実施しているプログラムだ。現代アートの領域で制作活動を行うアーティストから作品案を公募し、受賞者の作品を一年間、マネックスのプレスルームに展示する。

 

展示が行われるプレスルームは、マネックスが各種の取材対応や重要な会議を行う場所で、メディアを通して作品が紹介されこともある。また完成作品は、株主・投資家向けの統合報告書の表紙にも採用され、アーティストは作品が多くの人に目に触れるチャンスを得る。

 

今年受賞したのは、宮内裕賀さん(以下、宮内さん)の作品「イカリング」。イカを素材に用いてイカを描くユニークさと、独自の死生観をオフィス内に展開するスケール観が評価されての受賞となった。

宮内 裕賀《イカリング》ART IN THE OFFICE 2020 受賞作家

宮内 裕賀さん ART IN THE OFFICE 2020 受賞作家

作品をよく見ると、真ん中にある大きな輪(巨大なイカリング)の周りには、泳いでいるようなイカの姿の他に、イカ飯やイカの刺身などの料理、さらにはイカの臓器と思われるようなものまで描かれている。

 

オフィスに、イカ。なんとも不思議な取り合わせだが、「イカ画家」と名乗り、イカを描き続けてきた宮内さんだからこそのインスピレーションを、マネックスのプレスルームに受けたのだそう。

 

「部屋が円形で、半分がガラス面になっている、それがまるでイカが飼育されている水槽のようだと感じました。水槽の中を泳いでいるような生きているイカと、死んでいるイカの両方を描くことで、私が考える死生観、生き物は死んだら物質に戻って、また次の命になる、ということを表現しました。さらに都会にあるオフィスにイカの生命を表現することで、創造物は全て地球から生まれているということを思い出してもらえたらいいなと思ったんです」

 

言葉を選びながらも、真っ直ぐにイカへの思いを語る宮内さん。その思いを聞きながら絵をじっと眺めていると、すっかりイカの世界へ魅了されそうになる。

 

ここに描かれた絵は、1匹のアオリイカから取れたイカスミで描かれたというから驚きだ。

 

 

マネックス社員を対象としたワークショップで説明をする宮内さん。

食用にならない本来は捨てられる内臓などの部位を鮮魚店や居酒屋などから提供してもらっている。イカスミの他には、甲や水晶体などを画材として使っている。

「まず1匹の墨だけ加工して使い始めたら、結局最後少し残るぐらいの量で描ききることができて、そのことでも改めてイカの生命力を感じました。この世にはいないイカの、人生ならぬ「イカ生」を受け取って物質として、絵画という次の形に生かす。おこがましいかもしれないけど、イカの輪廻転生のサイクルに加わっているように感じています」

 

例年は、受賞アーティストはマネックスで5営業日以上の滞在制作が必須となり、ワークショップなどの機会を通じて、マネックスの社員と交流があることも、このプログラムの特徴だ。今年度は新型コロナウイルス流行の影響で、スタジオで制作したものを納品する形に変更となったが、制作過程の画像を共有したり、社員とメッセージをしながら交流を重ねた。

鹿児島にある自身のスタジオで作品をほとんど完成させた宮内さんは、設置に訪れた一日、最後の仕上げを現場で描くことができたという。

 

「一日でしたが、社員の方ともお話できました。このイカはどういうイカなのかと質問していただいたり、ご自身のイカとのエピソードを伺ったり。イカは食べ物として身近なので、好きな料理の話や、さらにはダイビング中に海の中でイカと出会ったエピソードも聞くことができました」

 

アートの効用の一つに、日常にある物の異なる見方を提案することがあるが身近なものを描きながら、美しく怪しくユニークな宮内さんの作品は、間違いなくその効果があるだろう。

プレスルームに訪れたお客さんとの間で、「これは何だろう」と会話が弾む、そんな場面が想像できる。

13回目を迎えたプログラムではじめての生き物の登場に、今までと違うワクワク感で社内も湧いているという。

アートはちょっと変わった親戚のようなもの

 

 

マネックスのWEBサイトには、「現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想い」から始まったとある。

 

「ART IN THE OFFICE」を始めたマネックス社長の松本大氏は、史上最年少で外資系金融機関のゼネラルパートナーに就任、35歳でオンライン証券会社の草分け、マネックス証券株式会社を立ち上げた。グローバルな金融グループを牽引する紛れもない凄腕なのだが、その出で立ちや話し振りは穏やかだ。

 

「ART IN THE OFFICE」はどのようなきっかけから始まったのだろう。ここからは松本さんに話を伺う。

 

「前のオフィスに、円筒形の会議部屋をつくったんですよ。部屋の真ん中に丸い机を置くと、相手とも斜めに向き合うことになるから話しやすい。さらに、壁面にグループ会社のロゴマークを描いて、取材時に私が座る位置を変えるとロゴマークを背景に写真を撮ってもらえると思って。ただつくってみたら、壁が丸くなっているので、マークがゆがんでしまうことに気がついた。そこでひらめいたのが、この場所をアーティストの場にしようということでした」

 

以前のオフィスの様子
松本 力《 三囲(みめぐり)アニメーション だれもしらない映画「何もしないことをおそれて 何もしないわけではない」 》ART IN THE OFFICE 2009 受賞作家 ©️マネックスグループ

「ART IN THE OFFICE」は、実は思わぬ計算違いから生まれたものだった。ただ、この場をアーティストの場にする、ということは、証券会社の生業にも関わることに気づく。

 

「マネックスは投資家と企業の間を取り持つのが仕事。アーティストとそうじゃないビジネスの人が出会う場所でもいいんじゃないかと思ったんです」

 

アーティストの場にしよう

ーーそうすぐに発想できたのは、松本さんが元々アートに造詣が深かったからでもある。美術館に足を運び、ギャラリーで作品を購入することもある。生粋のアート愛好家なのだ。

福士 朋子《take off / landing》ART IN THE OFFICE 2012 受賞作家

「親父がアート好きで、美術館に連れて行かれることが多かったので、なんとなく観ていたのが始まりじゃないかな」

 

編集者で写真も好きだったお父様の影響で、美術館に通うほか、幼稚園生の頃から写真を撮り始めていた。さらに中学校から大学までの同級生には、写真芸術家の松江泰治氏がいて、共に写真部に所属していた。

 

中学生の頃には、美術館にもよく出入りしていたのだという。

 

「出光美術館が当時はね、学生の入場料が100円だったか200円だったか、とにかく安かったんです。ラウンジで紅茶も飲み放題で。夏涼しいし、冬は暖かいし。そんな風に安くて、時間つぶしにもなるからしょっちゅう行ってました。でもああやってアートに触れていたことで、何かちょっとずつ感じるものがあったんだと思うんですよね」

 

そうして、アートの側で幼少期から学生時代を過ごし、感性を育んできた松本さん。だからこそ、記事冒頭のように「アートがあるのは当たり前」という言葉が出てくるのだろう。

 

「あんまりきれいな表現ではないかもしれないけど、アートはうんちみたいなものだって僕は言ってるんです。自分の中にある、それなしでは生きられないもの。生きていたらそれは絶対あるもので、自分の中にあるから出さないと逆に体の具合が悪くなってしまう。そういう必然的にあるもので、かつ外に出さないといけないもの。そんなものだから、ごく普通に身の回りにあるのは当然だと私は思ってますよね」

少し考えて、「あるいは、アートはちょっと変わった親戚みたいなものかもしれない」と言葉にする。

 

「少し個性的な弟が自分にいたとして、見放すなんてありえないですよね。家族だから付き合っていくのが当然。当たり前のようにそれを抱えるというか、一緒にいることが普通。だから、アートがないなんていうのはおかしいと思うんです」

金子 未弥《見えない地図を想像してください》ART IN THE OFFICE 2018 受賞作家

アートは多様性に触れる機会をもたらしてくれる

 

 

そんな松本さんに、「企業にアートがある、ということは、会社や社員にどんな影響があるのか」と聞いてみると、返ってきた答えは意外にも「あんまりない」というものだった。

 

「あんまりないですよね。というのも、そんなに即効力というか、即物的な何か効果があるとはもともと思っていないし、今でもそういう風には感じていないです。

でも、アートには人のレアな部分が出ていて、さらにはアーティストの人は得てして、存在がレアな場合があって。そういう意味で多様性の一つの象徴のような気はしています。

厳密に言うと象徴のような気が僕はしていないけど、もしかすると、社員から見ると、アートが会社の中にあるとか、アーティストが会社の中に来るっていうのは、多様性というものに、何かわかりやすく触れる機会になるように感じるんですよ」

川内 理香子《鮨/寿司/すし/sushi》ART IN THE OFFICE 2014 受賞作家

アーティストを受け入れるとき、社内は留学生を受け入れるような雰囲気になるという。今度はどんな人が来るのかな、とそわそわし、歓迎し、交流する。確かにそういう体験は企業の中にいると、なかなかない。

 

「会社はある一つの目的のために集まっているので、案外同質化しやすくて、似たような背景を持った、似たようなタイプの人たちが集まりがちなんですね。そこにアートっていう全く異なる背景を持つ人に接すると、人はもともと多様なんだよねっていうのを、潜在意識で思い出すきっかけになっている可能性があって。

お客様は多様だし、社会は多様だし、何か新しいアイディアって多様なものがないと生まれない。そういうプロセスを経て、何かちょっと役に立ってるんじゃないかという気がします」

企業ができるのは、アートとの出会いの場を提供すること

 

 

そうして今でこそ社内で歓迎されている「ART IN THE OFFICE」の取り組みも、始まった当初はまったく理解が得られなかった。どのように社内の反応は変わっていったのだろう。

 

「毎年選ばれるアーティストの雰囲気も、アートのテイストも違うんです。そうすると何が起きるかというと、毎年違う社員が興味を持ってくれる。去年は全然関心を示さなかったのに、今年はワークショップに参加しているとか。だから5年続けると、5つの違うカテゴリーの人が、よかったと言うようになるんですよ」

 

 

ここで松本さんはその様子を「塗り絵」に例えてくれた。

 

「塗り絵って最初のひとつのマスを塗ったとき、なんだか不安定で居心地が悪いですよね。でも5箇所ぐらい塗られるとなんとなくバランスがとれてくる。そうやって過去5年の間に1回良いと思った人がちょっとずつ増えてきて、ある程度まで広がってだんだん市民権を得てきた、というような感じなんです」

うんち、変わった親戚、そして塗り絵。様々なメタファーを用いながら話す松本さん。その表現の豊かさに驚かされる。ただ事実を言葉にされるよりもイメージが涌き、聞いている側にも連想が広がる。まるで松本さん自身の頭の中に、思考を立体的に描き出すキャンパスがあるようだ。

 

そうして少しずつ市民権を得てきた「ART IN THE OFFICE」は社員にとって、アートに触れる入り口になっている。

 

「今年はコロナの影響で限定的だったけれど、例年大きなレセプションを開いています。社員もかなりの人数参加して、そこにまたアーティストやギャラリストなどアート関係の人たちが来る。まさに多様性に出会う機会になってますね」

 

レセプションのときには、アーティストの作品やアメニティを購入することができる。そうしてアーティストやアートに触れた社員は、のちのちアーティストの個展を訪れることもあるのだとか。

 

「企業がバイヤーになるのは、ある一時期とか特殊なケースではあっても、本質的な買い手ではないと思うんです。やっぱり個人。でも個人が買うためには、アートに身近で触れる機会が必要なんです」

 

 

まず企業がアートに関わる。それがやがて個人がアートに触れる入り口となる。そうして個人が多様性に触れると、社会は多様であるということを認識したり、新しいアイディアを発想したりすることへとつながる。マネックスは会社をアーティスのための場として開くことで、その循環をつくりだしているのだ。

 

新型コロナの影響で今はまさに社会の変革期にある。働き方や価値観が多様になるこれからの時代、社会の問題や新たな価値に気づく感性をもったアーティストやアートのまなざしこそが、企業の中で大きな役割を担うのではないだろうか。

 

創造物は全て地球から生まれているということを思い出してもらえたらいいなと思った」

 

今年の受賞者である宮内さんの言葉と、コロナは自然と人間との関わりについて再考を促している言説とを重ね合わせながら、そんなことを感じた。


 

松本 大
マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO
1963年埼玉県生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資でマネックス証券株式会社を設立。2004年にはマネックスグループ株式会社を設立し、以来CEOを務める。マネックスグループは、個人向けを中心とするオンライン証券子会社であるマネックス証券(日本)、TradeStation証券(米国)・マネックスBOOM証券(香港)、また仮想通貨サービスを提供するコインチェック株式会社などを擁するグローバルなオンライン金融グループである。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカード 社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長を務める。

 

宮内 裕賀
1985年、鹿児島県生まれ。タラデザイン専門学校卒業。

2004年頃に近所のおじさんが釣ってきたイカの美しさと美味しさに魅了され、以来ひたすらイカの絵を描き続けている。第22回岡本太郎現代芸術賞入選、TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 アートコンペ準グランプリ受賞。これまでの展示に「全国いか加工業協同組合創立50周年記念式典」ホテルオークラ東京(2015年、東京)、「国際頭足類諮問委員会函館会議」函館国際ホテル(2015年、北海道)、「Cephalopod Interface in Crete」ギリシャ・クレタ水族館(2017年、ギリシャ)、個展「イカスイム」レトロフトMuseo(2018年、鹿児島)、「Street Museum」東京ミッドタウン(2020年、東京)などがある。

 


 

「ART IN THE OFFICE」は、現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、マネックスを通じて新進気鋭の現代アートアーティストを支援する場づくりをしたいとの想いから、2008年よりマネックスグループが社会貢献活動並びに社員啓発活動の一環として継続して実施しているプログラムです。

 


 

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