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COLUMN -

  • Jan. 20, 2022

  • Day2 Hakone 「POLA MUSEUM OF ART」
    Day TripArt:箱根篇:ロニ・ホーン

  • SHUICHI NAKAMURA / SNOW SHOVELING

中村 秀一 / SHUICHI NAKAMURA

 

Snow Shoveling店主
1976年生まれ、鹿児島育ち、東京在住。

「サッカー選手が夢だった」青年は10代に挫折を味わい旅に明け暮れ、20代に志した「フリーランスが目標」という何とも言えないパッとしない目標をグラフィック・デザインという業種でなんとか達成したものの30代には不安を抱き、自分の居場所を探して2012年にブックストアを駒沢に開業。港はできたが、未だに渡航先の定まらないボヘミアン志向の本屋です。

 



「Day TripArt」

日常のアート、そして街場のアート的なヒトモノコトを探す1dayトリップ。街歩きをしながら、目に入るもの耳に入るものへの感度を少し上げて、その街のアートと出会う。風の吹くまま、気の向くまま。時間はかかるかもしれないけれど、そのうち僕も気づくだろう。

Day2 Hakone

「POLA MUSEUM OF ART」
Day TripArt 箱根篇:ロニ・ホーン

ロニ・ホーンの「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる? 」をタイケンした時に、僕のココロが語りだすこと

 

 

 

午前6時、僕は車のハンドルを握り、夜明け前の246を西へ西へと進んでいる。カーオーディオからはビートルズの「We Can Work It Out」が流れ、ポールが軽快かつ無責任にそのサビを歌っている(We Can Work It Out 僕らはうまくやれるよ)。その後からコーラスで、ジョンがアイロニカルに人生の教訓を低い声で歌いあげる。

“Life is very short and there’s no time for fussing and fighting my friend.”

僕はハンドルを握りながら軽くハミングしつつ次の曲を待つ。デーンデデデデーンと聞こえてくる曲がそう、デイトリッパーだ。イエー。

 

さてさて、「街歩きをしながらアートと出会う」なんて気取ったこと言っておきながら、面の皮を厚くして僕はアートを求めて丘を越え山を越え箱根を目指している。目的地はポーラ美術館、そこで待っているのはロニ・ホーンだ(まぁ待ってないけど)。いつだったか10年くらい前にニューヨークの旧ホイットニー美術館(現在のメット・ブロイヤー)で暇つぶしに観た展示がロニ・ホーンだった。そんなことは忘れていたのだけれど、どこかで今回の展示のフライヤーを手にした時に、急にあの頃ペニー・レインじゃなくてアッパー・イーストで観たことを思い出し、「よくわかんないけど、なんかよかった」という、抽象度マックスの感想とともに、脳内にドーパミンだかセロトニンだか知らない謎の効果が随分とあったことを思い出し、そのそれをまた求めて向かったのだ。

Photo : Shuichi Nakamura

ポーラ美術館は国立公園の中に佇み、「自然と美術の共生」を掲げている通り、その豊かな自然の中に人工物として控え目に、それでいて確かな存在感を放っている(設計は安田幸一氏)。見上げたら空、山、目線には森の樹々、そして美術館はその下へと構えていて、ガラス張りの廊下を抜けて館内へ降っていく。そのアプローチに期待感は高まり、ここから違う世界へと誘われるかのように儀式めいた導線設計。余談だけどスタッフがおめしの制服も素敵(VIは長嶋りかこ氏のようだけど、制服は誰なのかしら)。

 

今回のロニ・ホーンの展示は、写真、立体、コラージュ、ドローイングなど様々な表現方法で、あの手この手で頭と心のツボを押されるような、初めてなのにどこか既視感のある心象風景の入り口に連れて行かれるような、ボンヤリ眺めているだけなのになぜだか別の思考のスイッチが入ったり、僕の頭の中でロニ・ホーンが配電盤の工事をしているかのように、次から次へと思考実験のようなことが繰り返されていく。

《無題(「必要なニュースはすべて天気予報から手に入れる。」)》
2018-2020年
鋳放しの鋳造ガラス
Courtesy of the artist and Hauser & Wirth
© Roni Horn
Photo: Koroda Takeru

ただただ綺麗なガラスの彫刻を眺めているようで、どこかの国のどこかの街の誰かの生活を覗き見しているようで、ロンドンの街を流れる川の水面を見ているようで、それでいて、どうやらそのものを見ていながら、いつの間にかそれらを通して違う何かへと思考がスライド。おそらく自分の記憶や感情、言葉にできない何か、してこなかった何かみたいなものへ、視点のフォーカスがカメラのレンズを開いて絞ってといじりまわしているかのように、自然と自らの内面へと移っていくのだろう。いったいこれは何だろう?子どもの頃に、雲を見上げてそれらに動物や人の姿を見出したように、あるいは昔の人が夜空を見上げて星と星の間に線を引き、そこに神々を認めたような、そんな感覚なのかもしれない。

《円周率》(部分)
1997/2004年
45点のピグメント・プリント
Courtesy of the artist and Hauser & Wirth
© Roni Horn
Photo: Koroda Takeru

《あなたは天気 パート2》(部分)
2010-2011年 64点のCプリント、36点の白黒印刷、PVCボードにマウント
Courtesy of the artist and Hauser & Wirth
© Roni Horn
Photo: Koroda Takeru

《静かな水(テムズ川、例として)》(部分)
1999年
15点の写真と文字のオフセット・リトグラフィー/非塗工紙
Courtesy of the artist and Hauser & Wirth
© Roni Horn
Photo: Koroda Takeru

《トゥー・プレイス》
1989-
布装丁の本、オフセット・リトグラフィー
Courtesy of the artist and Hauser & Wirth
© Roni Horn
Photo: Nagare Satoshi

《水と言う》
2012年5月、ルイジアナ近代美術館(フムレベック、デンマーク)でのパフォーマンス
ヴィデオ 39分11秒
日本語字幕|石井麻希、良知 暁
Photo: Nagare Satoshi

本屋っぽいことを言うと、一つの物語は、読者の数だけ物語として存在すると思っている。そこにはその本を読む人のイマジネーションや、物や事への定義、そして体験が作用するからだ。そういう意味では、このロニ・ホーンの展示も、同じようなことが言えるのかもしれない。このアーティストは、その作品の完成よりも、鑑賞者の中に起こるハプニング、この展示のタイトルから借用するとReflection(内省の意)を一つの「達成」としてるのかもしれない。そしてそれは実際に起こるのだ。そう、リフレクトするのだ。何が起こるか貴方も試してみてほしい。そしてそれを楽しんでほしい。

鳥葬(箱根)
2017-2018年 鋳放しの鋳造ガラス ポーラ美術館
© Roni Horn
Photo: Koroda Takeru

Photo : Shuichi Nakamura

「お家に帰るまでが遠足です」的なことを言うならば、この展示を見た貴方は館外の「森の遊歩道」を歩かなくてはならない。屋外展示の『鳥葬』は言うまでもなく(必見)。展示を見て高まった感受性を携えて森の中を彷徨うのだ。そこにはいつものように、そして来た時と何も変わらない景色が広がっていても、小さな違いや新しい視点、見過ごしてきた存在のようなものに気づくかもしれない。そこで貴方が目にするのは、森を見ていながら、拡張された自身の感受性に気付かされるだろう。いわゆる『センス・オブ・ワンダー』というやつだ。そしてこの展示のタイトルにハッとさせられたのは僕だけではないはずだ。「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」とロニは僕らに問うていた、その意味が。

そのようにして僕のデイトリップ(箱根篇)は、文字通り「小さな旅」となったわけだが、その中で、小さくも確かな「心の旅」も起こっていた。早朝の駒沢を飛び出した往路の車内で小沢健二なんか陽気に歌ってた僕は、帰りのドライブ・ウェイではシューベルトなんか聴いていた。アクセルとブレーキを繰り返しながら、10年前のニューヨークのホイットニーやらその頃の自分自身(まだ本屋をやる前だ)を思い出したり、普段は気づかない仕事における視点や、パートナーとの関係や、人生におけるアレコレと、ひたすら穏やかで心地よい内省に浸っていたのだから不思議なものだ。まるで何かのセラピーでも受けたかのように。

 

Day TripArt,Yeah.

 


 

さてさて、余談です。せっかく箱根に行ったのだから、他にもいく場所はあるよね。僕自身の本当のおすすめは、奮発して箱根の富士屋ホテルに部屋を取る。そして朝の9:00開館を目指してポーラ美術館へ。チェックインの午後までに展示を堪能するのだ。そしてその後は富士屋ホテル滞在を楽しむ。プールは特におすすめ。そこで展示の反芻をしてもいいね。そして翌日もまた貴方はポーラ美へ行くのだ。昨日見た展示と、今日見た展示の違いを楽しもう。以上、だいぶお節介で、偏向した箱根のポーラ遊びのススメでした。

 

あとねそれとね、上記は別としてね、お風呂は天山に立ち寄りたい。御殿場方面に帰る人は、途中にFUJIMI CAFEという文字通り富士山を眺めるカフェがある。あ、だったら御殿場まで行って「さわやか」のげんこつハンバーグを食べよう。小田原方面に帰る人は早川漁港まで行って港めしもいいね。欲張りなアートトリッパーは江之浦測候所という手もあるね。

以上、お節介ガイドでした。

良い旅を。

 


 

【information】
展覧会名:ロニ・ホーン展 水の中にあなたを見るとき、 あなたの中に水を感じる?
会場:ポーラ美術館展示室1,2 遊歩道
会期 :2021年9月18日(土)~ 2022年3月30日(水)
休館日:会期中無休
料金:一般 1800円  65歳以上 1600円  大学・高校生 1300円  中学生以下無料
詳細はKAMADO展覧会情報にて。
URLhttps://kamado-japan.com/exhibition/96/ 

 

google map

 

【偏向したお役立ち情報】

 

富士屋ホテル

https://www.fujiyahotel.jp/

 

ひがな湯治 天山

https://tenzan.jp/tenzan/

 

FUJIMI CAFE

https://www.fujimi-cafe.com/

 

さわやか

https://www.genkotsu-hb.com/

 

江之浦測候所

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

 

Content direction by Naomi Kakiuchi

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