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COLUMN -

  • Oct. 01, 2019

  • 街の中で“感情の重さ”を知る芸術祭
    「ART PROJECT KOBE 2019:TRANS-」

  • NAOMI KAKIUCHI/KAMADO CHIEF EDITOR

これまでの枠組みを覆す芸術祭が現在、神戸の街で開催されている。その名前は「アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS- 」(以下、TRANS)

 

「芸術祭?地方でやってて、色んなアーティストがそれぞれに作品を展示する楽しそうなイベントだよね」と思うだろう。
だが「TRANS」はたった2人のアーティストしか参加してない。

 

1人はやなぎみわ。そして、もう1人はグレゴール・シュナイダー

やなぎみわは、10月に3日間限定の舞台《日輪の翼》を披露し、そしてグレゴール・シュナイダー、国際舞台で活躍する彼が神戸の街で表現するのは《美術館の終焉ー12の道行き》だ。

 

 

第3留:旧兵庫県立健康生活科学研究所《消えた現実》
真っ白に塗られた廃墟の1フロア

シュナイダーの作品は「留(りゅう)」という呼び名のスポットになり、会場は8ケ所。鑑賞者はそこを順々に巡り、シュナイダーの作品を旅する。

 

第3留:旧兵庫県立健康生活科学研究所《消えた現実》は、昭和43年に兵庫県の衛生研究所として設立された建物。移転のため、現在は使用されておらず建物全てを使ったインスタレーションになっている。

ここでは、感染症や食品、飲料水などのための検査室や研究があった。廃墟となった館内は、重々しい空気が漂う。

使われていた痕跡が残る部屋

何があったのかは不確かだが、イメージを喚起させる空間

屋上にはカラフルに色塗られた檻の作品。動物が飼育されていたらしい

出られない時空間を繰り返す
第4留:メトロこうべ《条件付け》

第4留:メトロこうべ《条件付け》

第4留:メトロこうべ《条件付け》では、浴槽も蛇口もない浴室と、真っ暗な小部屋(多分)を繰り返し、何度も何度もドアノブを握ってはドアを開け、次へ進んでも全く同じ光景が続いていく。

 

聞こえてくる地下鉄の音が『今自分はどこに居て、何をしてるんだろう』と思う。

他人の家をのぞく、違和感 私邸1.2

第6留:私邸《自己消費される行為》1Fの様子

ガラス越しに寝ている男性がいる

第6留:私邸《喪失》2F

第7留:私邸《恍惚》

第6留、第7留共に、限定公開となる私邸。
普段、生活されている家を作品にしており、第6留の私邸では、パフォーマンスが行われる。
実際に「人」が居て生活をしている様子が見える。

人が抱える孤独と私生活での秘密、それとは無関係に外で動き続ける日常。

その人は居る事がおかしい私達を無視して生活を続けている。入ってはいけない、見てはいけない他人の「中」にいる居心地の悪さを感じた。

 

また第7留はパラレルワールドにどっぷりはまって生きる、ある男の住まい。強烈な電光と同時に放つ違和感を住宅街の一室で感じることが出来る。

 

誰も居ない空間の、住人の痕跡

第8留:神戸市立兵庫荘《住居の暗部》

神戸市立兵庫荘は、低所得者の男性勤労者のための一時宿泊施設として、昭和25年に開設。約70年間支援し続けた後、昨年その任を終えた。

真っ黒に塗られた真っ暗闇の中を入り口で渡された小さなライトを点灯し、奥へ進むと至るとこに住民が居た痕跡を感じる。

丸五市場で出会う、年老いた住民たち

第12留:丸五市場《死にゆくこと、生きながらえること》

第1留:デュオドーム《死にゆくこと、生きながらえること》 / 高精度の3Dスキャンで撮影される様子

第12留の丸五市場は、1918年に開場し、1世紀以上の歴史を持つ。1995年1月17日、阪神・淡路大震災に見舞われながらも、休場日だったことで幸いにして火災を逃れた「奇跡の市場」だ。

 

ここでは、第1留で生まれたデジタル世界の年老いた住民たちが待っている。アプリをダウンロードし、ARで出現する仕組みになっている。

丸五市場 場内

《死にゆくこと、生きながらえること》/画面内には、3Dデータ化された住民が現れる

グレゴール・シュナイダー

シュナイダーは「これまでの自分の作品は部屋の中で留まっていたが、街へ飛び出し、12作品を展示する大きなチャレンジになった」と話した。

第11留:ノアービル《空っぽにされた》/ここには本当に「なにもない」ただ、彼の作品を見続けた鑑賞者は「なにか」を感じずにはいられない

シュナイダーの作品を観てから数日間、咀嚼も言葉にも出来ずにいたものが、やっと何だったのかが分かった。それは「感情の重さ」だ。

 

もし目には見えない感情が可視化出来たとして、手に持ってるそれがどんどん重くなっていく感覚。

人によっては、怖いと感じる人もいるだろう。彼の作品は私たちが記憶や感情を持つからこそ成立している。そして日常の違和感、慣れ過ぎた生き方に「これでいいのか?」と大きな疑問を投げられる。

パワーがある作品は尾を引き、日常の中でも突然その感覚が戻ってくる。

苦しくても、それは立ち止まるのに必要な重さであると思う。

 

是非、貴重な芸術祭を体験してみてほしい。

最後に・・・

TRANS まとめ&オススメ箇所
・国際舞台で活躍するアーティストの作品を一気に体験できる機会!
・もし時間が許すのなら、作品を3、4つづつ位で観るのがオススメ
・ヘビーな作品が多いので、体調管理はしっかりと!
・丸五市場へは夕方頃行き、そのまま呑むといい

 

 

グレゴール・シュナイダーの作品のすぐ側には「誰かの日常」がある。
それが自分の中で、現実に戻りづらかった大きな一つだった。シュナイダーの作品を思い出すと同時に街で見たそこに住む人たちの笑顔が重なった。

 

《 丸五市場 》


 

【名称】 「アート・プロジェクト KOBE 2019:TRANS- 」
【会 期 】2019年9月14日(土)–11月10日( 日)
【主催】TRANS-KOBE実行委員会/神戸市
【参加作家】グレゴール・シュナイダー / やなぎみわ
【開催エリア】新開地地区/兵庫港地区/新長田地区
【公式サイト】http://trans-kobe.jp/

 

google map (丸五市場)

 

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