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12
2024
May. 31, 2020
IRORI TALK vol.3レポート『これからの創る人たち』
『IRORI TALK』とは?
現代アート・伝統工芸・民芸・モノづくりを軸にバイリンガルウェブマガジンを運営するKAMADOには「IRORI」という名前のコメント欄があります。
囲炉裏は、伝統的な日本の家屋に床や四角く切って開け灰を敷き詰め、薪や炭火などを熾すために設けられた一角のこと。囲炉裏と同じように皆んなの多様な価値観が集まり、話し合える場になりますように。
色んな方々をお招きして皆さんの業界のこと、大切にしてる価値観のことなどをお話して頂くオンライントークイベントがIRORI TALKです!
毎回いろんなジャンルの方々にお声かけして業界のことや大切にしている価値観などについて話します。今回のゲストはサウンドデザイナーの若狭真司さんと、デザイナーの黒野真吾さん。
おふたりをお招きし『これからの創る人たち』をテーマに、クリエイター全般のこれからの在り方や指向性の話、今おふたりが考えていることなどを伺います。
柿内奈緒美(以下、柿内):こんばんは〜! IRORI TALK vol.3です。今回のゲストは真司と真吾ということで、「シンシン」! 自己紹介をお願いします。
若狭真司(以下、若狭):僕は作曲家として、音を使った領域でいろんな活動をしています。広告音楽やブランドのアイデンティティを表現する音楽をつくるほか、映像作家の友人とSEMOSISというアーティストユニットで作品をつくっています。僕個人では、アンビエントミュージックという、景色を描くような音楽、声もなくリズムもあまりないような、音色にフォーカスした音楽をつくっています。
SHINJI WAKASA / TRANQUILO TRASCIENDO [RTE 013]
個人活動ではアンビエントミュージックを制作
QUANTUM DANCE from SEMIOSIS
映像作家とのアーティストユニット SEMOSIS
黒野真吾(以下、黒野):デザイナーをやってます。1〜10までというか、ブランドを立ち上げるところからユーザーに届くところまでを一貫してやりたいなと思っています。ブランドのフィロソフィーから、ブランドのロゴやカタログのグラフィックを制作、ブランドの世界感を伝えるため工場で写真を撮ってウェブデザインに落とし込んだり。〇〇デザイナーというより、プロジェクトベースで全てのことをやっています。
黒野さんが関わっている腕時計ブランド《sazare》のイメージワークシート
柿内:コロナで自粛中どういう生活でしたか?
黒野:“深海に潜っていた”感じですね。
若狭:僕も家でそんな感じでしたね。普段も作業で家に篭ることが多いけど、今回はさらに。自分の中に入っていくという意味で、まさに深海。自分の本質のところにフォーカスできた2ヶ月だったなと思います。
黒野:向き合えたというか。これまでの仕事や進んでいるプロジェクトもそうだけど、深いところまでリーチできる環境だったから。全くマイナスには捉えていなくて。
若狭:そうだね。じゃあいますぐの稼ぎに通じるかとか、というのが根本的にどうでもよくなっちゃって。「自分の存在そのものが、これからどういう人間になっていきたいか? どういうものをつくりたいか?」ということにより興味がいくようになった。これはいる。いらんもんは、いらん! みたいな(笑)
黒野:届く光が少なくなって、その光しか見えなくなったというか。
若狭:そうそう。届く光だけをきっちり捉えて、自分の中に入れようとしている。
黒野:これから以前の状態に戻れるかと言ったら、戻れないだろうし。
若狭:正直、戻りたくないというのもあるよね。明らかに有意義な時間を過ごしてて。朝起きて、何をしようか、何を考えようかということに本気になったというか。
黒野:それまでは知らず知らずだけど、納期に合わせてつくっていく、ゴールを逆算していくところがあって。それを積み上げ式でつくれる環境だったというか。元々はそういう風につくってたんだろうけど。
若狭:黒ちゃんだったら美術学生で、僕はバンドマンだった頃の何かをつくろうとするエネルギーの復活というか。コロナ以前に社会が戻ってしまったら、それはすごくつまらないなと。あり得ないと思うけどね。
黒野:“精神と時の部屋”だよね。
若狭:そうだね。
黒野:例えばハタチくらいのときに読んだ本を、今読むと絶対変わっている。ハタチの頃に徹夜してつくってたものを同じようにつくったとして、今は経験値があるし成長しているから前よりは俯瞰で見れるようになっているよね。
若狭:自分が出したものに対する理解度はあるかもしれないね。
黒野:主観でつくったものを、ちゃんと客観的に判断できるところは身についているよね。
若狭:ほんとそうだね。
Q:自粛期間中、仕事の専門分野以外に掘り下げたことは?
若狭:僕は音楽やめちゃうくらい色々吸収しましたね。(笑)。
黒野:例えば?
若狭:哲学。人の考え方を通して物事を考えられるようになろうと。読んだり考えたりする時間がすごくよかった。それと鳥が小さい頃から好きだったので……もう一回鳥について掘り下げようと。
黒野:僕はあまり分野ってことは考えたことがなくて。例えば漫画を読んでいてもデザインに生きてくるし、自分が目に触れたもの経験したもの全てが、コーヒーのフィルターを通すように自分のデザインに生きてくるから。デザインに関わっていると時計屋だったりケーキ屋だったり分野はバラバラ。いろんな業界のエッセンスを勉強して、それが他の関係ないところで生きてくるので。
若狭:でもそれが本質的だよね。
黒野:絞れるだけ絞って自分の栄養にしたい。
柿内:ここで打ち合わせで出た『脱コマンドZ』(⌘Z=やり直しショートカットキー)の話を…。
若狭:黒ちゃん3Dプリンタ買ったって言ってたよね?
黒野:そうそう。⌘Zを前提で考えないようになったというか。一回失敗してもいいか、っていう考えになった。失敗が次に生かされるはず。……強くなったのかな?
若狭:視点の位置が高くなったのかな? それこそ傑作願望が。みんなにもあるはずだけど。
黒野:あるよね。
若狭:(現代の)傑作願望には⌘Zを必要とする。でも古の彫刻家や画家や音楽家は、⌘Zがなかったわけで。生まれたミストーンや不協和音から、新たな響きが生まれたり。彫刻の『サモトラケのニケ』も然り。時代の解釈があるかもしれないけど。いろんなバグやミスをビビらず、さらに取り入れて次のものづくりにつながればいいよね。
黒野:ものをつくるときに、(手作業で)削ったりするんだけど。一回削ったら戻らないから、削りすぎるのは怖いんだけど一度経験したら二回目は早くなる。繰り返してなぞることで新しい発見があるかもしれない。
若狭:何度もなぞることで、癖のつき方がむしろ個性になるよね。
黒野:彫刻的にデザインしていきたいんだよね。
若狭:それは俺もすごくある! 彫刻的に音楽をつくりたいと思ってる。
黒野:グラフィックでも、そういう感覚でやっている。最後の薄い膜だけ残して、それ以外を全部削るような。
若狭:すごく解る。50代60代になったときに、透徹した目がほしいよね。彫刻家が素材の中にカタチを見出すような、いらないものを取り除く力。
黒野:そうだね。それは粘土細工じゃないんだよね。
若狭:でかいものから削ぎ落としていくんだよね。
柿内:「彫刻的にデザインする」っていいね。
黒野:今、初めて考えたけど。(笑)
Q:どんなジャンルの本を読んでいますか?
柿内:3人とも持っている『神経美学』。ふたりからおすすめされて、買っちゃいました。
黒野:これはいい本。難しそうだけど、言葉は分かりやすく書かれてるよね
若狭:脳科学、神経美学の最前線を知れるよね。
柿内:よく見るジャンルは?
黒野:やっぱり写真集とデザイン関係が多いですね。デザイン、ファッション……小説は別の部屋にあります。
柿内:私の中でクリエイターさんは、0→1をつくるんじゃなくて、1から7くらいまである段階をつくっているイメージで。その中で“クリエイターさんの色”を生かせるデザインにする、形にするのが幸せなんだろうなって。この2ヶ月の間でそれに向き合ってる人が多いんじゃないかなって思う。
某建築家の方が言っていたのが、「薄利多売の社会の中で振り落とされそうなスピード感だったのが、今は徒歩のスピードで考えてつくれることが幸せ。コロナ前には戻りたくない」って。売るだけの仕事、売るためだけのデザインはなくなっていくと思う。
若狭:マーケティングありきはなくなるなって。社会全体として直視され始めている。個の持つエネルギーや倫理観は特に。生きている個人がどれだけ自分自身のボトムアップができるかが大事になってきているし、それが平和。
黒野:超マスというよりも、好きな人たちやものが集まって。
若狭:小さなセクターやコミュニティがいろんなネットワークでつながって、さらに相互作用ができているっていう。化学反応が起こる状況になっていくし、コロナはトリガーになってる。
黒野:でも、スピード感が大事な時もある。
若狭:うんうん。
黒野:徹夜すればできたっていうのはあったよね。それでも晩ご飯がつくれるペースで仕事をやるのが健康的だなって。
若狭:本を読むとか、睡眠とか、朝の時間とか。疎かにしちゃいけなかったはずなんだよな。
黒野:……ヒレ肉を焼くことが何かにつながるって昨日思ったんだよね。
若狭:……。
黒野:肉の焼き方が上手って言われるんだけど。
若狭&柿内:知らんかったわ!(笑)。
黒野:わかんないけど、色の変化とか、柔らかさに対する感覚が高いのかな……? って。
若狭:それはテクスチャに現れている情報量を処理する能力が高いのかもしれない。
黒野:という、いい解釈をしている。
若狭:それが審美感につながると思う。そういう感覚がボトムアップしていくと社会がよくなっていくし人間という種族がよくなっていく。
柿内:いいものを沢山見ることで、自分の軸ができていくし。
若狭:そうですね。
柿内:……肉(笑)。
黒野:肉の焼き加減は任せてください。
柿内:私たちの世代は、20代くらいで携帯やインターネットが出てきて、まだアナログな面を抱えていた時代。アナログなものも苦じゃない。大切なこともわかっているけど、新しいものを使いこなさないと社会についていけなくて、お金を稼ぐにはそっちに行かないと……ということもある。そのバランスを取りたくなくて、私は一線を引いちゃってたとこはあります。
Q: Z世代と言われる若者とコミュニケーションをとったり刺激を受けることはありますか?
柿内:真吾くんは専門学校で教えているからまさに囲まれてるよね。
黒野:世代の違いもあるけど、圧倒的にこの10年で変わったのがデジタル。スマホとの付き合い方が俺より上手だなって。
若狭:デジタルネイティブ世代。
黒野:写真に対する意識というか。光の当て方とか教えられてないけど、何となく肌感覚でわかっている。研究してるしレタッチが上手い。
柿内:そういう子たちは自分の意見をうまく言えるの?
黒野:うまく言える子は、あまりいないかもね。
柿内:今の学校教育では、非認知能力(創造力・やり切る力・リーダーシップ力など)と言われる力が身につかないことが多いみたい。どうやったら向上できるんだろう?
若狭:時代というよりも個人だと思う。もちろん時代によって使っているツールとか情報を得る媒体は違うけど、基本的な人間の本質は変わってない気がする。
黒野:やり切る力って、成功体験だと思う。最後までやって、「できた」っていう完成の感動があると、やめられなくなる。
若狭:確かに。
黒野:あとは、最近は結果が早いなって。例えばTwitterでバズったらオッケーという風潮になっていたり、投稿して「いいね!」がつかなかったら失敗だ、みたいな。
若狭:フォロワーの数とかね。
黒野:わかりやすく数値化されちゃっているから、若い子のモチベーションにならないのかなって。
柿内:好きだったらやり続けられるんだけどね。
黒野:50年続くものをつくっていきたい。芯があるものをつくりたい。つくるまでの思考が大事で、そうしないと残っていかない。着飾るだけじゃなくて、周りの服をデザインするだけじゃなくて、腹筋をちゃんと鍛えるみたいな。
若狭:人間自体の体力を鍛えるような。
黒野:つくりたいというか、つくっていかないと。
柿内:ちょうど去年の今頃、真吾くんデザインのKAMADOのロゴができました。ちなみにKAMADO KUJIの音楽は真司くんがつくってくれています。
若狭:KAMADOのカタチに込められた想いのような社会になっていってほしいですね。
黒野:やっぱり哲学って大事なんですよ。
若狭:生きることへの能動性が生まれる社会になってほしい。そうしたら50年残るものづくりができるかもしれない。
黒野:プライドなのかもしれない。あと自分の意識をどこへ持っていくか。若手デザイナーと思って仕事をするか、大御所デザイナーに負けない気持ちで仕事をするか。
若狭:それは大事だね。
柿内:私は毎朝、これから自分がやろうとしていることを書くんだけど、『これからやろうとしてる事はできるのだろうか? 』と考えてしまうけど、やるしかない。しかも今は、「変わること」に否定的ではないから、チャレンジしやすいし。
黒野:マッキーだね。「大事なのは変わっていくこと、変わらずにいること」(笑)。
柿内:ふたりは武器が多い。真司くんは、雨音とか鳥の声を使ってもテクノロジーを使ってても、全部真司くんの音っていうのがすごいよね。真吾くんのデザインも同じ。
若狭:映像もデザインもそうですよね。
黒野:たまに映像撮るけどテクニカルなことはしようとしてなくて、自分は定点って決めているから。伝えたいことは、動より静の、しんとしている中で表現したい。今まで縦割りだった分野を、全ての流れを理解した上で形に切り取るのが自分のできる仕事だと思う。
若狭:いらない部分を削いだ形や、雨水が流れた後の形が僕らの仕事。
黒野:こういう考え方が今後増えていくと思う。グラフィックデザイナーがグラフィックだけをやってるのがのではなくて、全体の、経営にも関わっていったり。
柿内:全部やろうとするのはこの世代だからなのかな?と思う。
若狭:自分でやっちゃった方が、硬い表現になる。強くなるというか。
黒野:でも音楽をやろうとは思わないしコーディングにも手を出さない。信頼している人が見つかっていることが大事だと。
柿内:コロナ以前に考えていたものづくりと今って変わった?
黒野:全然変わった。別の世界が見えているような。プレゼンに必要ないところからちゃんと深掘ってやっていこうと意識が向くようになって。単純に追求するのが楽しくなってきた。
若狭:コロナ前だと、面白そうなことがあっても面倒臭いとやらなかった。今は手間を恐れないで、やりたいことをやる。
柿内:これから世界が変わっていって、面白い社会になるだろうなって。意識が変わっていくから、つくりたいものをつくる人が増えていく。
若狭:すげーわがままに生きましょう、って。愛を持って。世界が平和になっていく。
黒野:ZOOMの背景つくったり、ちょっとした冗談みたいなものも楽しい。
「シンシン=パンダ」という事で黒野さんが作ってくれたバナー
柿内:可愛いよね。シンシンだから、パンダ。(笑)
黒野:……デザインは、駄洒落である。
柿内:駄洒落である。(笑)
黒野:でもこれで、これからどうなるかわからないけど、考え方が変わっていくだろうし。その時々の思いを受け止めたいなって。
柿内:その時感じたものを素直に表現すればいい。
若狭:それが加速すれば、より個人が磨かなきゃいけなくなる。
柿内:KAMADOが文化の土壌をつくります!
視聴者コメント:「自分が好きなことにビビらないことですかね」
若狭:本当にそう! それが愛につながります!
(ありがとうございました〜!)
トイレタイム用のバーチャル背景もあります(笑)
若狭 真司 (わかさ しんじ)
サウンドデザイナー
横浜生まれ。幼少よりグラフィックデザイナーであった父の影響で、デザインや音楽に親しむ。10代より音楽活動を開始。都内のライブハウスやクラブイベントを中心に活動する中で、自身の音楽性に於ける静寂性、音響的な感覚を追求するため音楽を学び直す。後、「未音制作所 ( ひつじおとせいさくじょ )」を開業。各種の広告メディア、展示会やファッションショー、イベントへの音楽提供、演出を中心に活動している。また映像作家とのユニット「SEMIOSIS」ではSpotify や itunes で北米、メキシコ、べルリン等海外を中心にリスナーを獲得。スペインのRottenman Editions Label より個人名義でのアンビエントアルバムをCD/アナログ盤でリリースしている。
黒野 真吾 (くろの しんご)
デザイナー
1985年愛知県西尾市生まれ。 渡仏しデザインを学んだ後、国内のデザイン事務所で経験を積み、2015年よりフリーランス。 活動領域は多岐に渡り、企業やブランドのロゴ・アイデンティティ、広告、グラフィック、プロダクト、インテリア、ウェブなど、プロジェクトに於いて価値を高めるために必要とされる媒体を、企画から具体化まで一貫したアプローチで制作を行う。
writer MAYO HAYASHI