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12
2024
May. 05, 2020
IRORI TALK vol.0レポート『文化を楽しむ未来を創るには?』
IRORI TALK vol.0、KAMADO初のオンラインイベントを開催!
SNOW SHOVELING 店主・中村秀一さんとキノ・イグルーの有坂塁さんをゲストにお迎えしKAMADO編集長の柿内がファシリテーターを務めYouTube配信を行いました。
『IRORI TALK』とは?
現代アート・伝統工芸・民芸・モノづくりを軸にバイリンガルウェブマガジンを運営するKAMADOには「IRORI」という名前のコメント欄があります。
囲炉裏は、伝統的な日本の家屋に床や四角く切って開け灰を敷き詰め、薪や炭火などを熾すために設けられた一角のこと。囲炉裏と同じように皆んなの多様な価値観が集まり、話し合える場になりますように。
色んな方々をお招きして皆さんの業界のこと、大切にしてる価値観のことなどをお話して頂くオンライントークイベントがIRORI TALKです!
柿内奈緒美(以下:柿内)こんばんはー! 今回は、私の中で影響を受けたカルチャーの二大巨匠のお二人をお迎えしました。
(パチパチパチパチ)
中村秀一さん(以下:中村)こんばんは。
有坂塁さん(以下:有坂)よろしくお願いいたします。
柿内:自称、出会い系本屋スノウショベリング店主の中村さんと、旅する移動映画館キノ・イグルーの有坂さんをゲストにお迎えいたしました。まずは自己紹介からお願いします。
中村:みなさんこんばんは。初めまして。世田谷区駒沢でSNOW SHOVELINGという本屋をやっています中村です。本屋ですけど本以外のこともいろいろやっていて、一体何屋なんだってよく言われます。僕は文化が好きで、本屋だから本の虫というわけではなく本、映画、音楽が好きでわりとマルチカルチャーの本屋と思ってやっています。
有坂:みなさんこんばんは。移動映画館キノ・イグルーの有坂です。ほぼ毎週どこかで映画を上映会をするという活動をして今年で17年目です。映画をつくっているわけではなく場所も持っていないんですけど、わりと人とのご縁で今は北海道から九州、海外ではベトナムで上映したりしています。また、上映するだけがコミュニケーションの方法ではないので、その人に合った映画を選ぶ活動などもしています。ウェブサイトやインスタグラムで情報を発信したりしています。
柿内:お二人が会われるのは初めてですか?
中村:以前お仕事を一緒にしたことがあります。
柿内:私の中でお二人は似ている空気感です。
有坂:最初は共通の友人がいて、どうしても紹介したい人がいると言われてSNOW SHOVELINGに連れて行ってくれました。だいぶ前ですよね?
中村:6、7年前くらいですかね。
有坂:会ったのはその後にお仕事でご一緒して、今日で3回目ですね。
柿内:対談は初めてなんですね。
中村:対談はないです。タイマンもないですね。(笑)。
柿内:(笑)。今はコロナウイルス の影響でお店は閉められているんですか?
中村:緊急事態宣言を受けて、お店を閉めています(4月30日時点)。今は「あなたのうちに本を持っていきます」というサービスや、オンラインで「あなたに合った本を選びます」というサービスをしています。けっこう忙しいですね。
柿内:Umber Readですね。私も一度届けてもらいました。
中村:ウー◯ー。(笑)。
有坂:テレビでも紹介されたそうですね。
中村:NHKで、「あなたに本を選びます」というサービスの方ですね。
柿内:有坂さんは生活が変わりましたか? 映画は1日どのくらい観られていたんですか?
有坂:基本は1日1本のペースですけど、多い時は4本観ます。普段は外に出ているので、今は一日中家にいる生活になっています。でもやってみたら快適で、以前買って満足していたDVDや本など宝物と向き合う生活をしています。僕は映画が何千本ある中でどれを観たらいいかわからない人に、いろんなサブスクの配信サービスの中から9本選んでいます。昔から、頼まれていないのに誰かにリストを作るのが好きなんです。
柿内:視聴者からの質問です。
Q: コロナがある・ないにかかわらず、これからの時代で多様性の定義も変わっていくと思います。人・モノ・言葉においてもアップデートしていく必要がありますか?
中村:僕は今43なんですけど、僕の周りの同世代はアップデートに焦り始めている人が多いんです。10代20代だと頭がスポンジだったり好奇心が強いから自然にアップデートできるものが、30代40代になってくるとマニュアルアップデートにシフトしてくると思うんです。アップデートの取捨選択を迫られるので、そこを間違わなければ。40代で女の子のナンパの方法をアップデートする必要はないじゃないですか。(笑)
有坂:アップデートをそんなに意識しなくても、一度内側にベクトルを向けて「心が何を求めているか」にまず行かないと情報でパンクしてしまう。ベクトルが内側に向かう機会は大人になると徐々に減ってきます。僕は毎朝公園でランニングするんですけど、雨が降らない限り走るんです。音楽も効かないしスマホも持っていかない。公園で聞こえてくる鳥のさえずりや犬の鳴き声を聞いたり、そうすることでストレスを発散したりアイデアを思いついたりします。まず心と向き合うことが大切だと思います。
中村:僕も毎朝ヨガと瞑想をするんです。それがないと生きていけない、というとカッコつけてますけど。やるとやらないとでは違います。30分くらいヨガと瞑想しているだけで今日は何をすればいいというのがわかります。その日に自分は何に関心があるかがわかります。どんなに忙しくてもそれをやるようになって、日々が整っていますね。ルーティンのススメ!
柿内:ルーティンはいいですよね。私も毎朝7時に代官山T-SITEに行って雑誌を読み漁っていました。それを8年くらい続けていましたね。アップデートですね。
Q: これからの世界で必要とされる若者とは?
柿内:私がKAMADOを始めた理由は、自分たちより下の世代に届けたいものが多いから。KAMADOのビジョンは百花繚乱の世界を創ること。情報過多の中で選択する判断をできない、自分を表現できない人が多いように思っています。この世の中で生きづらい人がいたら、その人たちのためにもアートがもっと広がることを願っています。周りを認め合えることが大切。
有坂:せっかく自分に生まれたのだから、まず自分を生きることから始める。そうしないと何をやってもストレスになって結局いろんな情報とか大きな波に飲まれてしまう。社会的にもみんな、自分を意識しすぎちゃって、ベクトルが内側に向いていないからエネルギーを感じられない。何かひとつきっかけばあればちゃんとエネルギーはあるわけだから、若い人がもっとそういう風にベクトルを変えられたら面白い方向へ行けると思います。
柿内:おふたりは自分にベクトルを向けれていると思います。
中村:僕は、みんな空気を読まなくなればいいと思います。ある意味盲目的になる。僕は駒沢で本屋をやっているけど、小学生が下校中に傘を剣にして殺陣ごっこをしながら帰っているんです。あのモードが最強なんですよね。バカになれっていうことではなくて、あのくらい熱中できるものを手に入れた時ってネガティブなことを言わないんですね。外的要因にブーブーいうのではなく何でも能動的にやるモード。人生に能動的になること、いかにそのモードに持ち込むかってこと。もちろん若者だけではないんですけど。
柿内:文化・芸術はこれからどうなっていくでしょうか?
有坂:これが続いたら……でも今の映画館が答えではないので。今をどう乗り切るかというのももちろん力を注いで、これからはゼロベースで考えればいいんじゃないかな。今までと同じものにみんなが縛られているうちはネガティブなものになるし、新しいアイデアも生まれない。今はチャンスで、キャリア関係なしに自分が純粋にこうなったらいいなって形にしていく、どんどん投げかけていくことが重要で。それにコロナ後は変化を肯定的に受け入れてくれると思うんです。大きい組織もシフトしていく。肩書きとか関係なしに、みんなのアイデアが表に出せるような手伝いを僕はできればいいと思っています。
柿内:変わっていくことが当たり前になっていく。
有坂:やってみなきゃわからないことをみんなが受け入れる社会になると思う。どれだけ大胆な考えで変えていけるか。
中村:コロナウイルスですら変化するわけじゃないですか。人を介して。そこで必ず問題になるのは、守る人たち。いわゆる権利、上層で既得権益を守ろうとする人たちが足かせになる。本でも映画でも何でも多様な分野で。面白いことはほっといても起こる。でもメインストリームに引き上げるのは、お金を動かせる人たち。ストリートやアンダーグラウンドでは面白いことは自然発生するので、それを社会でどう認めて叩き上げていくかは、新しい時代において期待すべきことじゃないかと思います。
中村:アートはハードルをつくるじゃないですか、一般的に。アートはわからない、アカデミックじゃなきゃダメとか。そこをとっていく仕掛けをつくることが必要。例えば自分の好きなバンドのジャケットにアートが使われると入りやすい。そこからアーティストへ興味が移っていくとか。交わる仕組みとか、いろんなところで意識的に増やしていく必要があるんじゃないかと。
柿内:私はBlur(ブラー)のCDジャケットで、ロンドンの現代アーティストのJulian Opie(ジュリアン・オピー)を知りました。
中村:杉本博司とU2もいい例で、あのエピソードが素晴らしくて。U2のボノが、杉本博司の海岸線のシリーズ「Seascapes」の写真を使いたいとエージェントを通して連絡して。ただお金では面白くないから、クリエイティブコモンズ、使用権を交換しようよと。ボノは「Seascapes」を使えて、杉本博司はU2の音源を使える。無茶苦茶大きなスケールの物々交換なんですけど、そういう人たちがそういうことをやっているという、話がもっと広まればいいと思うんです。
柿内:違う業界が交わって、行き来するのは理想的ですね。
中村:お金に換算しないというところがポイントですよね。調べればオークションの金額もわかるんだけれど。ダイレクトにリスペクトだけで権利を交換しちゃうという、すごく素敵な話だと思う。要は金額にしないというのがすごいんですね。
KAMADOの新しいサービス「KUJI」について
【KUJI】とは……KAMADOがアーティストにインタビューをして、日英の言語で記事にする。IRORIのコメント欄で、読者がコメントをして支援をします。100円でも1000円でも大丈夫。集まった金額の50%をアーティスト支援として寄付します。アーティストはIRORIのコメント欄を読んで、この人に贈りたいと思う方へプレゼントする仕組みです。
中村:機会が増えることはいいこと。その機会がどう回っていって変化していくかは、企画の段階なのでRUNしてみないとわからない部分がある。想定内と想定外のことが起こるので、それが面白いですけどね。
柿内:タイミング的に、すごく必要なとき。オンラインだけど、アートが手元に届く。いいタイミングだなと思っています。
有坂:アートや作品を買うということ、アートがライフスタイルのなかにある人にとってはハードルはないと思うんだけど、買うことのハードルがある人にとってはきっかけができたのはすごくいいなと思う。いい意味で軽さができたというか。僕も、映画作品の良さを理路整然と説明するより、角度を変えて違う提案をしてあげただけで映画に対する見方が変わる。
柿内:どうやって今まで届いていなかった人に届けるか。
有坂:興味のない人がどうやったら映画館へ足を運んでくれるか。日本に、いろんな国のいろんな時代の映画が集まっているのは世界的に見ると稀なこと。東京とNYは特別です。せっかく恵まれている環境をどう生かすかはアイデアが必要だと思います。
Q: 現在、コロナで映画館に足を運べなくてタブレットで映画を見るのに疲れています。withコロナでの映画との向き合い方のヒントはありますか?
有坂:外出自粛中に、例えば映画日記をつけるとか。この期間中に、観たものをアウトプットをするものをつくっておくと映画との向き合い方が変わってくる。観なきゃいけないという強迫観念があればそれはなくして、見方を変えて「イベント化」する。トムクルーズ週間をつくるとか、観るという行為をどう楽しいものへ変えていくか。楽しいスイッチをつくるといいと思います。
中村:どこか能動性を持つということじゃないですか。スイッチを押して観るだけだとレシーブオンリーになってしまうけれども。レビューを書くとか能動的な要素を入れるとか。1年中、今日封切りになった映画を観るとか。能動的になると「体験がレイヤー化」していくので。
有坂:僕は自分の生まれた年に公開された映画を観るのが面白いのでおすすめですね。それは国を縛らずに、1本ずつ選ぶんです。そしていろんな国を見比べていく。僕の生まれた75年は「カッコーの巣の上で」が公開されて、好きな映画がさらに特別になりますね。
Q: 「こういう人と仕事がしたい」というのはありますか?
中村:こんな人と仕事をしたいというのはないんですけど「こんな人と仕事をして楽しかった」というのはあります。エラーを楽しめる人たちが一緒に仕事をして楽しい。プロジェクトが大きくなると、エラーが嫌われちゃうんですけど。でも誰かがエラーしたときに誰かがリカバリーしようとして、それで火事場の馬鹿力というかエラーをする前よりよくなっていることがあるんですよね。あえていうなら「世界を変えようとしている人たちと仕事がしたい」です。
有坂:どんな人と仕事がしたいというのはないです。キノ・イグルーの仕事は、相手が声をかけてくれて一緒に考えるというやり方で17年やっています。条件はないんです。ただ「たどり着いてくれた」ということに意味がある。求められるってこんな喜びはないです。自分が声をかけた側になると相手が本当に満足してくれているかばかりが気になるので、相手が求めてくれている中で自分の底力を出す方がいいですね。
中村:自己紹介が必要ない、という方が仕事がしやすいんです。楽をしようとしているんじゃなくて。中村を指名してくれるなら、相手はある意味わかってくれているから余計な仕事をしなくていい。
柿内:その人にしかできない仕事を、おふたりはまさにされていますよね。新しいサービスを行うときに大事なことは何でしょう?
中村:常に考えていること。365日、24時間考え続けること。その目線で街を歩けば、無茶苦茶ヒントがあるんです。あとは同業他社を見ないことが大事だと思います。僕が本屋だったら本屋をライバル視しないこと。他の小売業やサービス業を見ていいところを自店に変換できるかを考えるんです。なにかしらの感動体験があると、自分の中に眠っているその体験を引っ張り出せる。体験は肥やしですね。
有坂:僕も映画業界の中でヒントを得ようとは思っていなくて、生活の中でいろんなことに自分を置き換えて考えています。映画の業界の外の方がヒントがたくさんあるので。たまに煮詰まったときには、身体に揺さぶりをかけたり刺激を与えます。そうすると不思議なもので、無意識のところが働いていいアイデアが生まれます。
柿内:中村さん、有坂さん、ありがとうございました。
柿内:実は、本日4月30日は、去年ちょうど「平成最後の日」だったんですが、何をされてましたか?
中村:去年の今日、夜中に皇居の周りをBlurのTenderを聴いていましたね。(笑)
有坂:僕はいつもと同じように終わりましたね。
最後にひとつだけ。映画館に日本人が年間何回行っているかの統計があるんです。1年に1人当たり1.2本です。サブスクで観ている人も増えてはいるんですけど、映画館に行くアクションが少なくなっています。韓国は4本、アメリカは5本以上。世界的にみて日本は少ないんですね。今は外出自粛によって「映画館に行きたい」といっている人がすごく多い。今後、そこがどう変化していくかもみていきたいですね。
柿内:みなさま、ご視聴ありがとうございました!次回のIRORI TALKは「アートと生きる、アートで生きる」をテーマに現代アート業界の同世代メンバーでお話しします。
中村秀一
Snow Shoveling店主
1976年生まれ、鹿児島育ち、東京在住。
「サッカー選手が夢だった」青年は10代に挫折を味わい旅に明け暮れ、20代に志した「フリーランスが目標」という何とも言えないパッとしない目標をグラフィック・デザインという業種でなんとか達成したものの30代には不安を抱き、自分の居場所を探して2012年にブックストアを駒沢に開業。港はできたが、未だに渡航先の定まらないボヘミアン志向の本屋です。
HP http://snow-shoveling.jp/
Instagram @snow_shoveling
有坂塁
移動映画館キノ・イグルー代表。
2003年に中学校の友人・渡辺順也ととも移動映画館キノ・イグルーを設立。東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、無人島などで、世界各国の映画を上映している。2016年からは映画カウンセリング「あなたのために映画をえらびます」や、思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」をおこなうなど、自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
HP http://kinoiglu.com
Instagram @kinoiglu
writer MAYO HAYASHI