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COLUMN -

  • Jan. 08, 2020

  • 「浪漫台三線芸術祭」
    台湾にある"文創"という考え

  • NAOMI KAKIUCHI/KAMADO CHIEF EDITOR

台湾の桃園から台中までを結ぶ台三線という名前の道路があり、そこには「客家(はっか)」と呼ばれる人達が多く住んでいる。彼らは漢民族のなかにあって独自の伝統、生活様式があり、方言の客家語を話す。

 

昨年、10月19日〜12月15日までの間、彼らの文化を起点にした芸術祭が開催された。台湾での大規模な芸術祭は初めてで、国家レベルのプロジェクトだ。

 

芸術祭のテーマは「時間なら、たっぷりある

3大トピックは「水路、公路、細路」。「公路」(道路)では、客家のゆったりとした食、旅、ライフスタイルの雰囲気を伝え、「水路」は、客家の祖先の、水利工事における開墾フロンティアスピリッツを象徴。また「細路」(細道)では、樟脳古道における自然と人の繋がりを表現する。

客家の風土・文化に触れ、アーティストとの作品を楽しむ。きっとそこは、台湾のどこよりもゆっくりとした時間が流れていた。

 

今回の旅は「台湾といえば」という王道な部分ではなく、その土地に根付く暮らしに触れ芸術祭を通して、これまでとは違う台湾を感じることができた。

 

ロマンチック台三線芸術祭のエリアマップ

三坑老街の寺院

「菜包」「艾粄(草餅)」「包子(肉まん)」などを販売されている。
中身は甘い餡子や挽肉と竹の子を千切りし煮込んだものなど。

まず訪れたのが、三坑老街(サンケンラオジエ)。
水運が活発で、三坑は物資の集散地として栄え、多くの客家人が集まったそうだ。

 

街の中に入ると、市場が並び、客家料理が売られている。客家料理は台湾の醤油や酒で強く濃く香り付けされている。いい香りについ何度も足がとまる。

 

 

街を奥へ進むと、コスモスが畦道に咲く田園に出た。

 

そこには、日本のアーティスト景山健氏の作品《自然と共生共有》の展示があった。

この作品は住⺠や旅人と一緒に時間をかけて作ったもの。
彼は最初の骨組を竹で作り、外観は住⺠や旅人が割り箸でできたたくさんの三角椎体で積み重ねていく。
この作品の制作には、約6万膳くらいの割り箸が使われているそうだ。

桃園龍潭三坑老街 景山健氏の作品《自然と共生共有》

三坑老街入口に位置する「黒白洗」は、かつて婦人たちが集う洗濯場だった

寺院の屋根のカラフルな装飾が青空に映える

トンボの羽をモチーフに。林舜龍(リン・シュンロン)と景山健(かげやま・けん)氏の《年輪下、樟の細路を語る》

水運で栄えたといわるこの街の様子を作品にしたのは、今芸術祭の共同キューレーターの1人、林舜龍(リン・シュンロン)氏。彼の作品は今回、全部で4展示されている。

桃園龍潭の三坑自然公園内、林舜龍(リン・シュンロン)氏と王昱翔(ワン・ユーシャン)氏の《稻之蛹》

林舜龍(リン・シュンロン)氏と潘羽祐(パン・ユーヨウ)氏の《家の記憶風景》。地元の人たちに絵を描いてもらって一緒に作品を作った

北埔老街 阮義忠(ルァン・イーヂョン)氏の《北埔》

次の老街は北埔老街(ベイプーラオジエ)。煉瓦作りの寺院の小道にはスペイン出身のアーティスト イサカ・コルダ氏の作品。彼の小さな作品たちは、客家人をモチーフしている。すこし隠れるように展示されてる彼の作品を探して進んでいくと、途中に、写真展示や素敵なカフェの軒先が現れる。

 

新竹北埔老街にあるイサカ・コルダ氏の《街道物語》

イサカ・コルダ氏の作品写真

北埔老街の丘を登ると、霧と光で表現するアーティスト James Tapscott氏の《Arc ZERO》

安聖惠(アン・サンホゥエ)氏の《編織記憶》

伊祐噶照(イーヨーガージャオ)氏の《生命の痕》

屏東(ピントン)県出身の先住⺠族のアーティスト安聖惠(アン・サンホゥエ)氏が、あえて住⺠たちの交流の場であるお寺と樹齢百年の木の下を選び、白い糸で織ったランドアート《編織記憶》を自らの手で作成した。

 

また同じく先住⺠族のアーティスト伊祐噶照(イーヨーガージャオ)氏が、100坪の木によって廃墟になっていた東屋をリノベーションした《生命の痕》という作品が園内にある。

種が地面に落下したような外見は、客家人がこの土地で根付いたことを象徴する。また洞窟の形は、昔客家人が開発した穿龍水圳の形をインスピレーションとして作られた。作品の中に机と椅子もあり、本来の東屋の機能はそのまま残され、住⺠と旅人はゆっくりお茶を飲みながら交流ができる。この作品は常設として残される事になったそうだ。

12月7日、台北市内で行われたシンポジウムの様子

今回、芸術祭の終了間近に、日本のアート界からお2方が招待されシンポジウムとツアーに参加された。

1人は、当媒体でもインタビューさせて頂いてる東京藝術大学大学美術館館長 秋元雄史氏。

そして、東京都現代美術館参事 長谷川祐子氏だ。それぞれに今回の芸術祭について以下のコメントを頂いた。

 

秋元氏「広大な領域に広がるアートサイトは魅力的である。台湾の風景、歴史、それに人々の暮らしを現代アート作品を通して見ることができる。これは単なるアート展を超えて、アートによる新たな台湾の文化の創造行為でもある」

 

長谷川氏「客家文化をまとめ、ランドスケープと一緒にカルチャルエコロジカルに紹介している点、また壮大なスケールで実施されている芸術祭においてオーガナイザーションがしっかりしている事が今回の1番素晴らしいと思いました。プロデューサー、地元民、政府、全てのコミュニケーションがないと出来ない事と思います」

 

道路に書かれた「慢」の文字。「ゆっくり」という意味がある。

古き良きものから、新しいものを生み出そう」という事を文化創意、略語で「文創」という。これは台湾でよく使われる言葉。

今回の芸術祭は、まさに文創の考えの中で出来上がったもの、そして、軽やかなたくましさを持つ台湾の人たちのアイデンティティーが感じられた。

 

次回の開催は、ビエンナーレとして2年後を予定している。更なる文創が楽しみだ。


 

ロマンチック台三線芸術祭 開催概要

● 会期:2019年10月19日ー12月15日,58日間
●イベント範囲:台北、桃園、新竹、苗栗、台中,5つ県市
●イベントエリア:台北、龍潭、関⻄、竹東、横山、北埔、峨嵋、獅潭、大湖、東勢,合計10の地域
● 主催:行政院客家委員会、桃園市政府、新竹県政府、苗栗県政府、台中市政府
● 公式サイト: http://www.romantic3.tw
● Facebook: http://facebook.com/romantic3.tw/

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