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COLUMN -

  • Dec. 17, 2021

  • -織りと気配-アート展「Textile & Art 展」
    新しい在り方へのコンパスになる土地と表現

  • NAOMI KAKIUCHI /KAMADO CHIEF EDITOR

  • photo by Naomi Kakiuchi(クレジットがあるものを除く)

山梨県にある富士吉田へ行ってきた。

 

『富士がつく地名なのだから、きっと富士山が見えるんだろう』って安易に考えてたら、驚くサイズの富士山が姿を見せた。

 

富士山に一番近い商店街がある街、「富士吉田」。今、この街でアートとテキスタイルの展示が開催されている。

 

今も昔も、富士吉田は織物の産地だ。最盛期時には、6,000の機屋が軒を連ねており、花街があり芸者もいた。過渡期を過ぎて、今は200ほどの機屋が稼働している。

旧スルガ銀行の屋上に 西尾美也《裏地/裏富士》

「ガチャマン」を刺繍の作品に。
手塚愛子《Loosening Fabric #6 100年―記憶の縫合》
会場は旧すみれ洋装店

テーマは-織りと気配- アート展「Textile & Art 展」

 

高度経済成長の時には、一ガチャ(一織)するごとにお金を稼げたことから、「ガチャマン」という言葉もあるほど、織り機で潤った街だった。

 

だが、日本のどこの地方も同じだろうが、今では空き店舗が増え、建物は老朽化していった。

 

そんな街に住んでいた人たち、そして新しくこの街へやってきた人たちが集まり、新しい活動が生まれ、一つの集大成の形として、イベントが立ち上がった。

 

それが「FUJI TEXTILE WEEK 2021 – 織りと気配-」だ。

 

「織りと気配」を共通のテーマとして、アート展「Textile&Art展」と機屋展示「WARP&WEFT」で構成されている。(※機屋展示は12/12で会期終了)

 

富士山を背景に。奥中章人《INTER-WORLD/SPHERE》
作品の中に入ることが出来る、織物の横糸と縦糸の概念を表現した作品。

郡裕美《TSUMUGU》
織り機の音と、光の作品。少しだけ窓が開いており、現在の時間と交差する。

旧スルガ銀行の店内には、大巻伸嗣《トキノカゲ》
街の風景を背景にし、時間を感じることが出来る。

中心市街地の空き店舗や蔵、旧銀行などを舞台に

 

「Textile & Art 展」の出展作品には「テキスタイル=織物」を使用、またはテキスタイルを想起させるもので構成される。

 

10組のアーティストうち、5組のアーティストは、吉田市内の機屋と協働し、 新作に取り組んでいる。アーティストと富士吉田の機屋が事前に話し合い、互いにインスピレーションを得て作品を生みだすなど、テキスタイルとアートの新たな可能性が広がった。

今井俊介《Untitled》
富士吉田の機屋と制作したテキスタイルと描いた作品。絵画の平面性を追求している。

手塚愛子《Loosening Fabric #6 100年―記憶の縫合》展示風景

すみれのおばあちゃん。もうすぐ100歳になられる。

戦争時代の写真も。

手塚愛子《Loosening Fabric #6 100年―記憶の縫合》展示風景

旧すみれ洋装店の展示会場では、今回は既製品のテキスタイルを解く作品として、手塚愛子《Loosening Fabric #6 100年―記憶の縫合》が展示されていた。

 

この場所でつい先日まで、洋装店を経営していたすみれのおばあちゃんも、会場にいらしていた。

 

作品は横糸だけが解いてあり、柄のイメージは何となく見てとれた。

 

取り返しがつかない時間を私たちは生きている。巻き戻せない時間をこの作品ですこしでも巻き戻せたら」という手塚さんの言葉と、この土地で長い月日の人生を営んできたすみれおばちゃんの思い出の写真も展示され、作品とシンクロしており、思いを馳せることが出来た。

 

喫茶檸檬のロゴ

また導かれるような縁がつながって、ここ富士吉田には面白い人が集まっている。

 

東京 渋谷のデザインオフィス「株式会社れもんらいふ」の代表 アートディレクター 千原徹也さんが新プロジェクトとして立ち上げた「喫茶檸檬」は今年の9月末にオープンしたばかり。店内は多くの人で賑わっていた。

富士山が望める商店街

目に見えないものを大切にしてる

 

展示を観て回ってる途中、移住してきた方に伺ったお話が印象深かった。

 

富士吉田の人は目に見えないものを大切にしてる

 

それはいつの時代も畏怖や信仰の対象として、大きな存在だった富士山がこんなに目の前にあるのだから、そんな想いになるのはここにいる人たちにとっては当たり前なのだということ。

 

大きな自然の前では、人は驕ることができない。

自分は生かされてる。大きな流れの中の一部なんだ」と思える。この2年弱のコロナ禍を経て、私もそんな想いがより強くなった。

 

社会をよくする、人を笑顔にしたい、ただ単純に新しい面白いものを作りたい、そんな想いを持って進んでいくことは新しい時代の在り方へのコンパスになっている。

 

アートは即効性のある効果ではないものかもしれないが、生きる上で人には不可欠なもので、この富士吉田にしかない土地の個性と技術に掛け合わされ、「ここでしか体験できない」という価値になっている。

 

経済重視の社会でなく、人や感情が真ん中にあるコミュニティーがここにある。そんな日本の地方がこれからも、きっともっと増えていくだろう。

 

代表するようなこの街「富士吉田」へ、また訪れたいと思う。

アーティスト、事務局、機屋の皆さん 
photo by 吉田周平(公式撮影カメラマン)

FUJI TEXTILE WEEK 2021 メインビジュアル

※アート展は予約制のガイドツアーで開催中。
詳細は展示情報のこちらをご覧ください。

 

https://kamado-japan.com/exhibition/140/

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