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COLUMN -

  • Dec. 23, 2022

  • Day3 Chiyoda-Ku 「MOMAT」
    Day TripArt:竹橋から神保町あたり篇:大竹伸朗展とアレコレ

  • SHUICHI NAKAMURA / SNOW SHOVELING

中村 秀一 / SHUICHI NAKAMURA

 

Snow Shoveling店主
1976年生まれ、鹿児島育ち、東京在住。

「サッカー選手が夢だった」青年は10代に挫折を味わい旅に明け暮れ、20代に志した「フリーランスが目標」という何とも言えないパッとしない目標をグラフィック・デザインという業種でなんとか達成したものの30代には不安を抱き、自分の居場所を探して2012年にブックストアを駒沢に開業。港はできたが、未だに渡航先の定まらないボヘミアン志向の本屋です。

 



「Day TripArt」

日常のアート、そして街場のアート的なヒトモノコトを探す1dayトリップ。街歩きをしながら、目に入るもの耳に入るものへの感度を少し上げて、その街のアートと出会う。風の吹くまま、気の向くまま。時間はかかるかもしれないけれど、そのうち僕も気づくだろう。

Day3 Chiyoda-Ku 「MOMAT」
Day TripArt:竹橋から神保町あたり篇:大竹伸朗展とアレコレ

 

12月の冷たい雨の中、東京の中心(竹橋)に向かう。お堀の外周をカラフルなウェアを身にまとったランナーが行き交う。紅葉する樹々とコンクリートのコントラストが綺麗。遠くにはそびえ立つ丸の内あたりのビル群。ここは東京、今日はそうTokyo Calling。The Clashが「London Calling」を歌ってから40年以上が過ぎているというのに、この世界で起こっていることの幾つか(例えば気候変動やエネルギー問題)は何も変わってない。

2022年の今日も資本主義は無駄を生み出し、ゴミを出し続けている。何が有用で何が無用なのかもわからなくなるカオス。

《宇和島駅》1997年

展覧会会場入口

そんなわけで今日は宇和島に来ている(?)。局地的で比喩的な東京の宇和島。つまり東京国立近代美術館で大竹伸朗の大回顧展が開催されているのだ。MOTで行われた「全景 1955-2006」から16年ぶりとなる大規模な回顧展。そして現代美術ついでに街歩きを楽しむ、そんなデイ・トリップ・アート。

 

自他ともに認めるほどではないにせよ、大竹伸朗の作品や発言には、それなりに影響を受けてきた。拾った廃材や既存の印刷物を使って作品を作ったり、極めて個人的な遊びの延長のような作品群は、鑑賞者にも創作意欲を与え、さらには個人的な感情の扉もノックしてしまう。入り口に近い展示室では大竹が学生の頃に訪れたロンドンの写真や、1年間労働に明け暮れた北海道の写真とともに、若かりし頃の作品群が出迎えてくれる。まるでどこかの国のモダン・アート・コレクターの部屋を訪れたような感覚。それほどまでに作風やテーマもバラバラなのだけれど、ここから画家、大竹伸朗が誕生していくわけだから、それぞれの作品が興味深く見えてくる。

《男》1974-75年 富山県美術館

《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年

記憶の中には、引き出しなのか宝箱なのか知らないけれど、いろんな物が無作為に詰め込まれていて、作品を鑑賞しているうちに、いつの間にか何かを思い出したり、新しいアイデアのようなものも湧いてくる。どうしてこんな物を作るんだろう?と抽象度の高い作品を見ながらも、不思議と何かに例えたり、心当たりを覚えたり、自分の中の何かと符号(勘違いかもしれない)することがあるのが芸術鑑賞の面白いところかもしれない。

 

時は金なり、なんて誰が言ったか知らないけれど、大竹伸朗の作品の多くは素人が見ても気の遠くなるような手間暇を想像させる。見れば見るほどディテールへの拘りが容赦ない(そうどこに視線を移そうと)。特筆すべきはドクメンタで発表された作品《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》だろう。なるほどこれは『自画像』なのか。廃材で組み立てられた小屋に取り付けられた”モンシェリー”の電光看板。室内には壊れたギターを改造してかき鳴らされ続けるサウンド。埋め込まれた映像。何層にも重ねられた張り紙、つまりコラージュ。どれを見ても全てがどこからかやってきた物で、それらが何かの因果でここに集合して、それには”自画像”と名前がついている。何が何だかわからないんだけれども納得せざるをえない。そして圧倒的に凄いのだ。それは。

《ゴミ男》1987年 東京都現代美術館

《ニューシャネル》1998年

移行によって、そんな風に前の役割を終えたものたちが作品となっていく様は面白い。バラエティに富む大竹の作品のなかでもアイコニックな存在となっている《ニューシャネル》のタイポグラフィーでさえ、実は宇和島からやってきたそうだ。普通に営業していたスナックの扉にアンバランスなゴシック体でニューシャネル。それを大竹本人が交渉して持ち主から譲り受けた話もとても面白い。それがそのまま書体となり街をいくファッショナブルな人たちがTシャツの胸に携えているのだから。

左:《網膜(クレバス)》1990年
右:《網膜 #1(白ナイル)》1988-90年
ジェハン・チュー&アラン・ローコレクション

夢で見た感覚をそのまま作品にしてしまうなんて発想も面白い。網膜という身体の機能をカメラという光学機器のフィルムに置き換え、目の前にそびえ立つのは大竹の夢なのかもしれないけれど、既視感とも言える感覚が確かに存在するのが面白い。ナカムラだって大竹伸朗の夢を見るのか?

奥:《ダブ平&ニューシャネル》(ステージ)1999年 
公益財団法人 福武財団

層といえば、ライフワークのようなスクラップブックの展示コーナーは左右のショーケースに蛍光灯がビタッとあたり、サイバーな参道のようでトンネルのよう。そしてコラージュにより狂気的なまでに膨らんだページと、重なる層は手にとってめくれないのは少し残念だけれど、このあたりではそこにどんなヴィジュアルがあるのか、脳内で再現できるのではないかというくらいに大竹ワールドが侵食していた。

 

音もまた彼の重要なマテリアルでありインスピレーションであることを2Fの展示室は物語っている。そして最後に新作の《残景 0》(2022年)とともに待ち受ける《ダブ平&ニューシャネル》の景色は、まるでフェス会場のセットチェンジでお目当てのアーティストを最前列で見るために並び始めるファンを見てるようで、作品とは全く関係ないところで、そのストレンジな雰囲気に独りほくそ笑んでいた。

美術といってもいろんな作家、いろんな作品があるけれど、大竹伸朗の作品群を目の当たりにすると、決して美しくある必要はないのだろうなと思えてくる。度々登場する蝿であったり、拾った物、大量生産の欠片のようなものを駆使して何かを作り上げていく。それらからは、その見た目ではなく、作家の眼差しやアプローチ、あるいはそれを作っている時の気持ちを想像したり、そこにあるエネルギーのようなものの中に圧倒的なまでの美しさを感じてしまうのだ。

 

その感覚に少しでも触れることができたならば、この展覧会に来た甲斐があるというもの。そして自分の中の何かが壊され、楽しむこと、面白がることが何かしら書き換えられ、端から見れば何も変わってないかもしれないけれど、いつかどこかの機会で、その違いのようなものが発揮されるのではないかと思う。

 

正直なことを言うと、この展示は点数でいうと約500点にものぼるらしく、一回で見て周るというのは結構ハードかもしれない。ニューヨークのメトロポリタン美術館に行った時にも思ったことだけれど、できることならココに一定期間住みたいと思った。気の向くままに、有り余る時間の中で、一つ一つの作品と対峙できたら一体どんなことが自分の中で起こるだろう。叶うはずもないけれど、そんなことを想像しただけで楽しい気持ちになる。そんな妄想を心のどこかにしまいこんで展示室を後にする。

もし時間的に余裕があれば(常設のコレクションも必見だけれど)、お勧めしたいのは同館の4Fにある「眺めのよい部屋」。展示を見て刺激を受けた心と脳のチルアウトにはもってこい。皇居と高層ビルと広い空が貴方を待ち受けている。そこでスマートフォンなんかポケットにしまいこんでひたすらボーっとしてみる。そこで何かを思い出したり、湧いてきた感情を整理したり、言葉にならないものをありのまま楽しんでみたりするのだ。うまくいけば貴方はそんなスペースを提供してくれている東京国立近代美術館に感謝することになる、かもしれない。

東京国立近代美術館4階「眺めのよい部屋」

さてさて、せっかく竹橋あたりまで来たのだから神保町は歩いても行ける(ここではスマートフォンを駆使しよう)。懐かしの神保町。かつてはブックハントで足繁く通ったものだ。誰も求めてないのだけれど、勝手ながらお勧めコースをシェアしてみよう。

 

お腹を空かせたナカムラは、まず『いもや』で天ぷらを食べる。丁寧な仕事と様式美とともに食事を楽しむ。そのあとはkinonedoでクッキーをお土産に買いたいところだけれどこの日は閉まっていた。靖国通りまで戻りディスクユニオンで棚を物色し、すずらん通りでボヘミアンズギルドでアートブックを物色し、マグニフで雑誌やファッション系の本を探すのも楽しい。そして何がしの戦利品を抱えてそうだな、喫茶店ならいくらでもある。「さぼうる」「ラドリオ」「神田伯剌西爾」「トロワバグ」といくらでも出てきそうだけれど、今日のところはタンゴの流れる「ミロンガ」へ。コーヒーでも飲みながら、異国の音楽を聴きながら買った本やレコードのライナーノートでも読んだりして、日常と非日常の境界をさまよう。

 

どうだろう、かなり詰まり詰まったデイ・トリップ・アート。毎日はやってられないかもしれないけれど、時にはこんな遊びもよくないかい?芸術と文化に満ちた竹橋から神保町あたりで。

 

デイ・トリップ・アート・イエイ♬

【大竹伸朗展】

会場:東京国立近代美術館

日程:開催中-2023/2/5

詳細はこちらから

https://kamado-japan.com/exhibition/245/

 

大竹伸朗展 公式サイト

https://www.takeninagawa.com/ohtakeshinroten/

 

この後の巡回展

愛媛県美術館 2023年5月3日(水・祝)-7月2日(日)

富山県美術館 2023年8月5日(土)-9月18日(月・祝)[仮]

 

【竹橋から神保町へ】

東京国立近代美術館

https://www.momat.go.jp

 

天ぷら いもや

https://goo.gl/maps/F2GFLge399tR9WUV8

 

kinonedo

https://kinonedo.com/

 

ディスクユニオン神保町店

https://diskunion.net/shop/ct/jinbouchou

 

ボヘミアンズギルド

http://www.natsume-books.com/

 

マグニフ

http://www.magnif.jp/

 

ミロンガ・ヌオーバ

https://goo.gl/maps/VpLuLGZe3rNwTf5Z6

 

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